燃料電池内で生成したミクロの水を視える化〜新型MIRAIの開発を支えた放射光解析~ No.037
燃料電池内で生成したミクロの水を視える化
~新型MIRAIの開発を支えた放射光解析~
成果のポイント
燃料電池内のミクロの水を「視える化」し、制御することで高性能化!
- 放射光X線を用いて、燃料電池*の発電により生成したミクロの水を高速かつ定量的に可視化する技術を構築
- 自動車用燃料電池の高出力化を促進する、複雑な水の挙動を解明
- 新型MIRAI**の高性能燃料電池スタックの開発に活用
研究・開発機関:(株)豊田中央研究所、(株)SOKEN、トヨタ自動車(株)
SPring-8の活用
背景
持続可能なエネルギー社会の実現において、水素は将来の有力なエネルギーと位置付けられています。水素を燃料とする燃料電池自動車から排出されるのは水のみで、“究極のエコカー”として、その普及が期待されています。
燃料電池の性能は触媒や電解質などの材料だけでなく、発電によって生成する水をいかに効率的に排出するかによっても大きく影響されます。そのため、燃料電池の設計において、セル内の水の挙動を把握することが重要となりますが、これまで直接見ることができませんでした。
成果の詳細
燃料電池の設計にフィードバックするには、発電により生成した水を、高速かつ高分解能で定量的に解析できる技術が必要となります。SPring-8の世界最高性能の放射光を用いたX線ラジオグラフィー法***により、セル内のミクロの水を“視える化”、それらを制御することで、高性能化することが可能となりました。
本技術は、2020年12月にトヨタ自動車より販売された新型MIRAIの燃料電池の流路セパレーター、およびガス拡散層の設計に活用され、燃料電池スタックの高性能化・低コスト化に貢献しました。
新型MIRAIの燃料電池システム
燃料電池(FC)スタック
高圧タンクに貯えた水素と、空気中の酸素とをFCスタックへ供給し、化学反応により発電して得られた電気エネルギーでモーターを駆動させます。発電に伴い水が排出されますが、高出力化に対し、適切な水の管理が重要です。その水管理は、ミクロからミリまでの非常に幅広いスケールとなります。発電を担う触媒層で生成した水は、ガス拡散層をミクロンオーダーのスケールで移動し、その後、ミリオーダーのセルの流路を通って排出されます。いずれのスケールにおいても、水がスムーズに移動し排水される必要があるため、これらの水の移動や分布を可視化して把握することが重要となります。
水の流れの可視化と豊田ビームライン(BL33XU)
豊田ビームライン:(株)豊田中央研究所が運営する専用ビームライン
発電による水の動きを可視化し、排出促進の流路形状による高出力化を検証
新型MIRAIに採用されたセパレーター流路の絞りの効果を検証しました。放射光X線ラジオグラフィー法により、燃料電池内のミクロの水の挙動を高速かつ定量的に可視化する技術を構築し、観察すると、供給した空気が滞留した水を押し出して水の排出を促進し、触媒への空気の供給が増えることで発電性能が向上することを明らかにしました。
これらの計測技術は、豊田ビームライン(BL33XU)内に設置され、燃料電池車の運転を模擬する小型評価ベンチ、X線を透過できる特殊な発電治具、および高速・高感度X線カメラシステムの開発により、世界トップクラスの解析技術が達成されました。
用語解説
*燃料電池:
酸素と水素の単純な化学反応により、電気を生み出す発電デバイスで、家庭用や自動車用以外にも、鉄道、船舶、月面探査車などへの展開が検討されています。発電の際に排出されるのは水のみで、使用時にCO2を出すことがないため、水素は環境にやさしい次世代エネルギーとして注目されています。
**新型MIRAI:
2020年12月に販売された第2世代の燃料電池車です。初代MIRAIは、世界初の量産型市販燃料電池車として2014年末に販売されました。
***X線ラジオグラフィー法:
X線を用いて、物体の内部構造や状態を透過像として撮影する方法です。物体を透過するX線の強度分布をX線カメラなどの検出器を用いて撮影します。
【関連情報】
- 関連ビームライン:BL33XU
- 掲載日:2021年3月22日