高性能な低燃費タイヤの開発 No.003

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高性能な低燃費タイヤの開発 No.003

高性能な低燃費タイヤの開発

材料内部の三次元構造をナノ~マイクロメートルスケールで解析

成果のポイント

  • タイヤのゴム中のナノ粒子(シリカ)の三次元配置を計測できる「時分割二次元極小角X線散乱法(2D-USAXS)」を確立
  • 時分割二次元小角X線散乱法(2D-SAXS)*との2つのデータ解析結果に基づいて分子設計をおこない、新材料を開発
  • 従来品に比べて転がり抵抗**を39%低減し、燃費性能を約6%向上させた高性能タイヤを実現、製品化

研究・開発機関:住友ゴム工業(株)

SPring-8の活用

背景
 自動車の燃費の向上にはタイヤの燃費性能が大きく効いてきます。ところが、タイヤは路面に接触して変形し、エネルギーロスすることでグリップ性能を生みだし、安全な走行を実現しているのです。
 一般にタイヤの主材料はゴムですが、これにカーボンやシリカなどのナノ粒子を加えると、強度が増し、変形に強い高グリップなタイヤの開発が可能になります。しかし、グリップ性能を上げるとエネルギーロスが増大し、燃費性能は低下します。
これは、ゴム中のナノ粒子が凝集してネットワーク構造をつくっているためではないかと考えられてきましたが、そのサブマイクロメートル領域の構造を調べる手法がありませんでした。

成果の詳細
 まず、SPring-8の高輝度・高平行なX線を利用して、 サブマイクロメートル領域の測定ができる「時分割二次元極小角X線散乱法(2D-USAXS)」を開発し、ゴム中のシリカ粒子がつくるネットワーク構造をその場観察しました。また、ナノメートル領域で分子レベルの測定を行い、2つのデータからシリカのネットワーク構造の中で、摩擦力を大きくして燃費性能を下げている部分が明らかになりました。
 こうした実験に加えて、ネットワーク構造の時間変化を追えるシミュレーション結果を反映した分子設計をおこない、シリカ粒子が分散した構造をもつ新材料を開発。グリップ性能、燃費性能ともに優れた高性能タイヤが誕生しました。


サーモグラフで撮影した走行中のタイヤ表面の温度比較

従来のタイヤはオレンジ、黄色の部分が多く、温度の高いことがわかります。温度の低い新製品のほうが燃費性能に優れていることが見てとれます。

Pt/CZを含む三元触媒の働き


時分割二次元極小角X線散乱法(2D-USAXS)

物質中のサブマイクロメートル(10-7 m)領域の構造体のサイズや形状を測定する手法。BL20XUの長さ160 mの真空パスをカメラ長とすることで、きわめて小さな角度(10万分の1度以下)で散乱するX線を観測し、この領域の構造を解析することができるようになりました。その結果、ゴム中のシリカ粒子がつくるネットワーク構造が明らかになりました。

時分割二次元極小角X線散乱法(2D-USAXS)


ゴム中の分子結合の比較

タイヤのゴムは、合成ゴムと天然ゴム、補強材から成り立っています。従来のタイヤ(上)では、それらの結合部分が少なく、それが発熱の原因になっていました。また、シリカが凝集してネットワーク構造をつくっています。新製品(下)では、合成ゴムに「両端末マルチ変性ポリマー」を採用。
ポリマーの端に導入した変性基と新しい結合剤の働きで、シリカとポリマーの結合力が向上し、シリカの分散性が増しています。

ゴム中の分子結合の比較


用語解説

*時分割二次元小角X線散乱法(2D-SAXS)
物質中の数百ナノメートル(nm:10-9 m)以下の構造体のサイズや形状を測定する手法。2011年に竣工したフロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン、BL03XUおよび構造生物学Ⅱ共用ビームラインBL40B2で測定されます。

**転がり抵抗
タイヤの進行方向とは逆向きに働く力。空気抵抗、接地摩擦、タイヤ変形の3要因から構成されていますが、タイヤ変形の寄与が9割程度とされています。


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