-コロナ後の世界を考える-

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-コロナ後の世界を考える-

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki
(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

雨宮慶幸 JASRI理事長

 新型コロナウイルス禍の終息がまだ見えない状況にあるが、コロナ後(AC:After Corona)は、コロナ前(BC:Before Corona)とは異なった世界になるだろうという議論を耳にする。14世紀に中央アジアからヨーロッパ全域を席巻したペスト流行は、ヨーロッパ全人口の4分の1にあたる推定2,500万人の命を奪った。ペスト流行は、カトリック権威から世俗の政治権力への移行、自然界の観察を重視するルネサンス及びそれに続く宗教改革の流れを作ったと言われている。1918年に米国から世界中に広まったスペイン風邪(インフルエンザ)は、全世界で推定4,000万人の死者を出し、その多くは第2波と第3波で命を奪われた。スペイン風邪は、第一次世界大戦の終結を早める結果になったと言われている。
 上記のような疫病が歴史の転換点になり、世界の流れを変えてきたと観る疫病史観がある。今回のコロナ禍は歴史の転換点になる可能性があるかも知れない。実際、既に全世界に広がったコロナ禍は、政治、経済・産業構造、働き方、日常生活、人間関係など様々な側面で大きな影響を及ぼしている。また、各側面での現状の問題や今後の課題を顕著にあぶり出している。例を挙げれば、政治におけるガバナンスの在り方(民主主義or専制主義)、国際関係の在り方(一国主義or国際協力)、経済における物価・雇用の安定性確保、格差・貧困是正の問題、産業構造や働き方に関する課題、広くは日常生活における人間同士の繋がり方に関する課題(移動orリモート)等である。
 コロナ禍で明らかになったBC時代の社会の脆弱性を是正することが、AC時代に向けて私達が考えなければならない最も重要な事柄である。今後、個々人そして社会全体が責任を持って考え、行動しなければならないだろう。AC時代の世界全般に関して論ずることは私の能力を超えているので、身近に感じる事柄に関してのみ述べてみたい。
 今後、加速すると考えられる科学技術分野は、ロボット技術に代表される遠隔・自動操作、5Gに代表される高速・大容量データ通信であろう。放射光科学においても、今後、ロボット技術(遠隔・自動操作)と高速・大容量データ通信の導入が加速されるべきだと考える。コロナ禍の中、SPring-8/SACLAは、一般ユーザー向けの運転は中止しているが、新型コロナウイルスに関係する研究課題を積極的に受け入れ、運転を継続している。目に見えないウイルスとの闘いにおいて、「目に見えない世界を可視化する放射光」は重要なツールである。AC時代において、放射光科学が果たすべき役割は益々大きくなると確信している。社会貢献・学術貢献に向けて、放射光科学に関わる一人ひとりが今まで以上の責任感と使命感を持って研究に取り組んでいくことが期待されている。
 AC時代により必要とされることは、SDGs[1]に対する取り組みである。SDGsは2015年の国連総会で採択された、「我々の世界を変革する持続可能な開発のための2030アジェンダ」で示された2030年に向けた具体的行動指針であり、達成すべき17の目標が設定されている。その中には、貧困、飢餓、健康、教育、平等、安全、経済、産業、生活、環境、平和、国際協調等、今回のコロナ禍で脆弱性が明らかになった事柄が多数含まれている。全世界が共有したコロナ禍を転機にして、全世界がSDGsの行動指針を実生活の中で共有することが重要である。
 現時点(5月1日)では、緊急事態宣言により外出の抑制が求められている。コロナ禍を終息させるためには、個々人の良識ある考えと行動様式が不可欠である。人間行動の抑制に関する問題は、自由vs規制、民主主義vs専制主義、個人vs全体に関わる人間社会の重要な問題である。この問題はコロナ禍に限らず、経済や環境問題にも関わっている。「欲望の時代の哲学」、「欲望の資本主義」等、人間の欲望の在り方が関心を集めている。AC時代を考える上で、個々人そして社会全体に内在している良心・良識を啓発する文化の構築、個々人および人間社会の欲望の適切な方向付けが必要であると考える。その進め方や妥当性に関して、極論を避け、バランスを保ちながら考えていきたいと考えている。

[1] https://ja.wikipedia.org/wiki/持続可能な開発目標

<過去の理事長室から>  
−新年の抱負と健康長寿の心身の生活習慣− Volume 25, No.1 Page 1
−高輝度研究者センター− Volume 24, No.4 Page 364
−理事長に就任して− Volume 24, No.3 Page 249