夢なき者に成功なし -Share of Dreams (=Vision×Mission×Passion) toward SPring-8-II-

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夢なき者に成功なし -Share of Dreams (=Vision×Mission×Passion) toward SPring-8-II-

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki
(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

雨宮慶幸 JASRI理事長

 主題目の言葉は吉田松陰が残した次の文章の末尾にある言葉である。「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。」吉田松陰は、明治維新の中核をなす人材を多数輩出した松下村塾を開塾し、和魂洋才の「生きた学問」を弟子と一緒に切り開いた人物である。松陰は思想家、教育者として知られるが、同時に、西洋の先進文明に心を打たれ、ペリーが日米和親条約締結のために来航した際に、旗艦ポーハタン号に漁民の小舟で漕ぎ寄せ乗船し、この咎で牢屋敷に投獄されるという経験を有する行動派の人物でもある。この行動の原動力は、松陰が持っていた夢であり、多くの人材を輩出した原動力も、松陰が持っていた夢であったに違いない。
 日本で「放射光実験施設」(Photon Factory)が1978年に設立されたとき、放射光は「夢の光」と呼ばれた。放射光(=Synchrotron Radiation)は、それ以前に欧米で実現していた光であり、科学的には決して「夢の光」ではなかった。しかし、その当時の私たちは放射光を「夢の光」と呼ぶことに抵抗感は全くなく、Photon Factoryの建設に関わった人々は「夢の光」を実現すべく、一丸となって協力関係を構築してプロジェクトを推進した。その当時、私は博士課程の学生であり、指導教官である高良和武教授がPhoton Factoryの旗振りをされていた。今思い返すと、放射光を「夢の光」と呼び、それを実現すべく類い希なる行動力とリーダーシップでPhoton Factoryを実現に導いた高良教授の原動力は、吉田松陰と同様に「夢」であったと感じる。
 「夢は、はかないもの、実現しないもの。」と云う人もいる。ある前提条件が欠落している場合、それは正しい。その前提条件は、「(その夢が)多くの人によって共有されること」であり、その前提条件が満たされる限り、夢は実現すると私は確信している。大学院生時代に、高良先生の持つ夢を知らず知らずの間に共有させて頂いたことに、今更ながら感謝の念に堪えない。
 話は変わるが、JAXAの探査機「はやぶさ」が、飛行中に燃料漏れのトラブルを起こし、一時は地球との交信が途絶えながらも、結果的には奇跡的に小惑星イトカワからのサンプルを持って地球に帰還(2010年6月13日)したことは多くの人に大きな感動を与えた。イトカワからのサンプルの3次元構造解析がSPring-8で行われたことは、皆さんご存知のことと思う。「はやぶさ」帰還の裏話を「JAXAの宇宙活動の語り部」と呼ばれる的川泰宣氏1)から個人的に聴く機会があった。その話を聞けば聴くほど、「はやぶさ」の地球への帰還は、文字通り「絶望からの復活」であった。詳細は割愛するが、最も強く印象に残っていることを等式で表すと、プロジェクトの強さ=目標を共有している強さ、である。この式を拡張して、プロジェクトの強さ=目標を共有している強さ=夢を共有している強さ、とすると、吉田松陰や高良先生の話に通じるものがある。的川氏は成功のポイントを次の3点に要約している。1)大・中・小を含む日本の技術力の強さ、2)諦めない心、力を合わせる心、3)適度な貧乏と未来への志。「金がなければ頭を使え」が合い言葉であったと云うのが、適度な貧乏の意味であり、含蓄がある。
 東北の次世代放射光施設が2023年の稼働を目指して建設が進んでいる。その後は間髪を容れず、SPring-8-IIプロジェクトを実現することが我々の使命である。プロジェクトを推進するにあたり、プロジェクトの強さ=目標を共有している強さ=夢を共有している強さ、という等式をしっかり心に刻んで、全力で投入したいと考えている。具体的には、次の3点の共有が大切だと考えている。Vision、Mission、Passionの共有である。JASRIが理研、SPRUCと一丸となり、更にJASRI全スタッフが一丸となって、Dreams(=Vision×Mission×Passion)を共有して、プロジェクトに取り組んで行きたい。

1)私が所属した東京大学軟式庭球部の先輩で、東京六大学リーグ戦で個人戦全勝という、創部以来未だに破られていない戦績を持つ。映画化された「はやぶさHAYABUSA」では、俳優の西田敏行が的川氏の役を演じている。

<過去の理事長室から>  
−コロナ後の世界を考える− Volume 25, No.2 Page 87
−新年の抱負と健康長寿の心身の生活習慣− Volume 25, No.1 Page 1
−高輝度研究者センター− Volume 24, No.4 Page 364
−理事長に就任して− Volume 24, No.3 Page 249

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