-相対化の時代における研究開発型公益法人JASRIのあり方-

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-相対化の時代における研究開発型公益法人JASRIのあり方-

土肥 義治 DOI Yoshiharu
(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

土肥義治 JASRI理事長

  「相対化の時代」は、国際政治学者の坂本義和教授が著した岩波新書の表題である。20世紀は、国家イデオロギーが優先する絶対化の時代であったという。20世紀前半の帝国主義と全体主義の対立による世界戦争、そして後半の民主主義と共産主義の対立による冷戦の時代において、イデオロギーの絶対化が国家対立の軸を構成した。冷戦終了までの絶対化の時代において、わが国の企業、大学、研究所など多くの組織は国策に従って船団を形成して行動した。
 1991年のソ連崩壊により米国の一極化が進むと、米国自身の世界への関心が低下し、内向き政治という後退現象が起こった。その結果、国家や民族においてイデオロギーの相対化と多元化が進み、世界の各地域で文明の衝突が起こるようになった。21世紀に入ると市場経済の世界化が一気に進み、国家や組織の相対化を加速した。資本主義市場経済の世界化が、企業、大学、研究所などの組織に自立を促し、その自律的発展に必要な秩序維持的役割を国家に求めた。
 競争的な社会環境となり、高輝度光科学研究センター(JASRI)は2007年に放射光利用研究促進機構の国指定が解除され、登録施設利用促進機関として再出発し、必然的に組織の自立と自律的な経営が必須となった。相対化の時代においてこそ法人を再定義して、その普遍的な原点を強化する必要がある。原点を喪失した組織は漂流して、この時代を生き抜くことは困難であろう。JASRIの原点は、一人ひとりの研究員、技術員が真実一路の科学者精神を大切にして、科学的知見をもとに新しい技術を開発することである。この科学者精神が、ヴェーバーのいう価値合理性の追求である。目的合理性が支配する経済社会において、経営者は科学者精神を発揮するよう研究員、技術員を励ますとともに、法人JASRIの組織力を強化して社会的使命を着実に実行し、共用施設の利用研究成果を最大化するシステムを構築すべきと考えた。
 6年前にJASRI理事長に就任するにあたり、理事長室からの記事に次の経営方針を述べた。JASRI経営の基本は、第一に公正で透明性の高い組織運営を実行すること、第二に放射光科学における高い技術力と調査能力を維持して学術と産業の発展に貢献すること、第三に利用者から信頼されるSPring-8/SACLAの供用業務を行うこと、第四にJASRIの職員がやる気を出せて元気に活動する労働環境を整備すること、そして時代の変化に的確かつ柔軟に対応する組織運営を行うことを方針に掲げた。上記の方針を実現するために役職員とともに努力を続けてきたが、SPring-8/SACLAの利用者の方々の全幅の信頼を得るには道半ばであり、JASRI理事長として自省することが多い。これまでの6年間、ご支援とご協力をいただいた多くの関係各位に心より感謝し御礼を申し上げたい。
 最後に、私事を述べることをご海容いただきたい。研究室を主宰し学生の教育に責任を持ち始めた30代後半から、海洋や土壌のなかで生分解するバイオプラスチックの研究を独自に進めた。20年余り東京工業大学と理化学研究所において、大学院生や研究員らとともにバイオプラスチックに関する研究を発展させた。研究室から多くの若い研究者が巣立ち、国内外の大学に20人以上が教授や准教授として赴任して研究室を立ち上げている。50代後半に研究現場から離れて研究所経営が本務となり、理研とJASRIにおいて15年間その責務を継続してきた。自ずと科学論文を読むよりも、万葉集や歴史・哲学関連の書籍に親しむ時間が増えた。10年程前より、自然、旅、日常、仕事、芸術、科学などを素材として毎月10首以上の短歌を詠んできた。詠み積み増した短歌のうち548首を選び収めた歌集「学問の香」を角川書店より4月に上梓した。研究所経営者として働いてきた期間の感慨と足跡を歌集として残すことができたことは誠に幸いであった。

<過去の理事長室から>  
−正倉院宝物の染織品と万葉歌にみる植物染色法− Volume 24(2019), No.1 Page 1
−社会経済における正義とイノベーション− Volume 23(2018), No.4 Page 304
−科学技術の実践指針 “Think globally, act locally”− Volume 23(2018), No.3 Page 201
-創造的科学研究における直観と暗黙知の役割- Volume 23(2018), No.2 Page 92
-学際研究にて知る日本人の起源と混成構造- Volume 23(2018), No.1 Page 1
-心の哲学と科学技術の連携- Volume 22(2017), No.4 Page 296
-理化学研究所の創立百周年にあたり- Volume 22(2017), No.3 Page 226
-脱炭素社会のための技術開発とエネルギー選択- Volume 22(2017), No.2 Page 90
-財団JASRIの事業再編成と社会的責任について- Volume 22(2017), No.1 Page 1
-研究論文のオープンアクセス化にむけて- Volume 21(2016), No.4 Page 266
-科研費改革とその時代認識- Volume 21(2016), No.3 Page 180
−学問の自由は、これを保障する− Volume 21(2016), No.2 Page 77
−財団JASRIの四半世紀、そしてこれから− Volume 21(2016), No.1 Page 1
−オープンサイエンスの国際的な広がり− Volume 20(2015), No.4 Page 308
−放射光の科学技術と施設の将来を考える− Volume 20(2015), No.3 Page 236
−科学の客観性と科学者の価値観− Volume 20(2015), No.2 Page 125
−国内の放射光施設を訪ねて− Volume 20(2015), No.1 Page 1
−利用研究成果の最大化をめざして− Volume 19(2014), No.4 Page 308
−世界結晶年にあたり歴史に学ぶこと− Volume 19(2014), No.3 Page 219
−SPring-8の中間評価を受けて− Volume 19(2014), No.2 Page 90
−SPring-8利用研究成果の論文分析− Volume 19(2014), No.1 Page 1
−産学連携の研究基盤としてのSPring-8− Volume 18(2013), No.4 Page 281
−理事長就任の挨拶− Volume 18(2013), No.3 Page 202