理事長室から SPring-8-IIの整備開始とNanoTerasuの共用運転開始

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理事長室から SPring-8-IIの整備開始とNanoTerasuの共用運転開始

雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki
(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

雨宮慶幸 JASRI理事長

   現行のSPring-8の約100倍の最高輝度を有し世界トップの性能を誇る第4世代放射光源であるSPring-8-IIの整備予算が、2024年度補正予算として170億円措置されました。また、2028年度までの5年マル債として総額499億円が閣議決定されました。
 SPring-8-IIは、現行の約100倍の最高輝度を有するだけでなく、磁石システムの一部を電磁石から永久磁石に置き換えることやリングを周回する電子エネルギーを8 GeVから6 GeVに下げることによって、加速器運転にかかる消費電力をこれまでの6割程度にまで削減し、大幅な省エネ化を実現できる放射光源です。
 今後、加速器・ビームラインの製作・組立・調整が開始され、2027年後半と2028年前半の運転停止(ブラックアウト)期間を経て、2029年度からSPring-8-IIが共用開始される予定です。ブラックアウト期間に対する善後策を、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)、SPring-8利用推進協議会、放射光学会、他の放射光施設の方々と早急に練っていきたいと考えています。  SPring-8の設置者である理化学研究所、文科省を始めとする行政のご尽力、そして、SPRUCやSPring-8利用推進協議会の利用者、経済界や地元自治体からの応援があってこそのSPring-8-II計画実現へ向けてのスタートであり、関連する皆様方に厚く御礼申し上げます。SPring-8-IIの利用者選定と利用支援を行うJASRIの役職員一同、SPring-8-IIにおける研究成果の創出の最大化に向けて、これまで以上に粉骨砕身で取り組む所存です。
 既にご報告したように[1]JASRIは2024年4月1日付で、NanoTerasuの登録施設利用促進機関(登録機関)として承認されました。NanoTerasuは、2024年4月から一般財団法人 光科学イノベーションセンター(PhoSIC)によるコアリション利用、同年5月より量子科学技術研究開発機構(QST)による共用ビームラインの試験的共用が始まりましたが、いよいよ本年3月3日から共用利用(2025A期)を開始しました。それに伴い、SPRUCとNanoTerasuユーザー共同体(NTUC)を統合した新組織「特定放射光ユーザー協同体」が3月1日に発足しました。
 現在、NanoTerasuには共用ビームライン(BL)が3本あり、各々、軟X線領域における共鳴非弾性X線散乱(RIXS)、角度分解光電子分光(ARPES)、ナノ吸収分光(XAS、XMCD、XMLD)実験用のBLです。昨年9月から実験課題の応募を開始し、本年1月の選定委員会で採択課題が決定されました。多くの実験課題の応募があったため、課題採択率は全体で50%という結果でした。軟X線向けの第4世代放射光源であるNanoTarasuに対する期待の大きさを実感する結果でした。JASRIの研究スタッフが、これら共用BLの利用者をしっかり支援して、NanoTarasuの威力を示す研究成果の早期創出に向けて貢献する所存です。
 また、今後の共用BLの増設に向けて、QSTとの議論を進めて行きたいと考えています。そのためにも、今後、JASRIナノテラス事業推進室の再編を視野に入れて、若い研究者人財の確保と組織の効率化に努めていきたいと考えています。特に若い研究者人財の確保に関しては、利用者の皆様からの積極的な人財推薦をお願い致します。

参考文献

[ 1 ]https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=43043

 

<過去の理事長室から>  
理事長室から 国際会議SRI2024の報告-DESYを見学して- Volume 29, No.4 Page 281
理事長室から 我が上なる星空と、我が内なる道徳法則 Volume 29, No.3 Page 171
NanoTerasuの登録施設利用促進機関として ―ナノテラス事業推進室の開設― Volume 29, No.2 Page 90
今後に向けてJASRIの成すべきこと-JASRI Vision 2030- Volume 29, No.1 Page 1
インテグリティ Volume 28, No.4 Page 343
「ナノテラス対応検討タスクフォース」の設置 Volume 28, No.3 Page 231
帰納法と演繹法-ChatGPTと新たなイドラ- Volume 28, No.2 Page 103
階層構造とウロボロスの蛇 − 宇宙~物質・生命・人間~素粒子 − Volume 28, No.1 Page 1
心理的安全性 − 安全・安心なJASRIを目指して − Volume 27, No.4 Page 293
SPring-8, be sustainable for SDGs! Volume 27, No.3 Page 186
Giver or Taker ? −相克から相補へ− Volume 27, No.2 Page 79
一隅を照らす −高輝度光源と照らし合わせて− Volume 27, No.1 Page 1
人材育成の原点 −第6期科学技術イノベーション基本計画に期待する− Volume 26, No.4 Page 340
待った無しの「2050年カーボンニュートラル」 −IPCC報告書を読んで− Volume 26, No.3 Page 250
JASRI創立30周年を迎えて Volume 26, No.2 Page 91
正見 −八正道と放射光科学− Volume 26, No.1 Page 1
一口講座:物理法則は数式ではなく量式である −数と量の混同について− Volume 25, No.4 Page 271
−夢なき者に成功なし− Volume 25, No.3 Page 210
−コロナ後の世界を考える− Volume 25, No.2 Page 87
−新年の抱負と健康長寿の心身の生活習慣− Volume 25, No.1 Page 1
−高輝度研究者センター− Volume 24, No.4 Page 364
−理事長に就任して− Volume 24, No.3 Page 249

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