理事長室から 国際会議SRI2024の報告 -DESYを見学してー
雨宮 慶幸 AMEMIYA Yoshiyuki
(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI
第15回SRI2024[1]が8/26-30にDESY[2]のあるドイツのハンブルク市で開催された。SRIは放射光施設が主催となり原則3年毎に開催され、第1回は1982年にDESY内で開催された。SRIは放射光光源、ビームライン、光学系、検出器系、データ解析等の技術とその応用に関わる国際会議で、私は第1回から毎回参加している。今回JASRIからは10数名が参加し、本号では本報告を含めて4報の報告が掲載されている。
参加者は34カ国から約1,200名を数え、国別ではドイツ内から約400名、ドイツ外からは中国が最多、その次に日本、フランス、米国、英国と続く。プログラムで印象に残ったことは、37コマのMicro Symposium(MS)の中で、光源の高輝度化に密接に関係するMSの数が多かったことである。「データ、自動化、AI」、「イメージング、コヒーレンス応用」が各4コマ、「時間分割測定」、「SR光源アップグレード」、「FEL光源」が各3コマであった。従来のSRIの主要テーマに関わるMSは、「ビームライン」(4コマ)、「光学系」(4コマ)、「検出器」(3コマ)であった。加えて3件のKeynote Lecture、11件のPlenary Lecture、500件以上のPoster session、57件の展示ブースがあった。理研の田中均氏が初日のPlenary Lectureで“SPring8-II and Beyond”という大きなスコープの演題で講演し、参加者に強いインパクトを与えた。
JASRIは本年4月からNanoTerasuの登録機関になったこともあり、NanoTerasu及びJASRIの国際的な知名度を高めるために、QSTの協力も得て展示ブースを開設した。SPring-8/SACLAの知名度は高いものの、NanoTerasu、JASRIのそれは十分ではなく、優秀な人財を獲得するためにも国際的な知名度を高める必要を感じた。
DESYのSRI2024主催は、DESYの放射光科学60周年記念とDESYが計画する第4世代放射光光源PETRA-IVの早期実現に対して時宜を得たものであった。前日には60周年を記念するSatellite会議[3]が開催された。次回の第16回SRI2027は、ブラジルで開催される。
DESYは創立時(1959年)には素粒子科学を目的としていたが、1964年に第1世代放射光源の利用を開始し、今年はその60周年を記念する年にあたる。DESYではこれまで数々の加速器を建設してきた。それらは、DESY(周長300 m、7.4 GeV)、DORIS(二重リング、周長289 m、5 GeV)、PETRA(周長2.3 km、6 GeV)、HERA(周長6.3 km、重心エネルギー: 320 GeV)、FLASH(直線315 m、1.35 GeV)、Euro-FEL(直線3.4 km、17.5 GeV)である。DESYは2007年にHERAをシャットダウンして素粒子科学を目的とする研究は終了し、その後は放射光科学を目的とする研究に転換した。
DESYでは現在はPETRA-III、FLASH、Euro-FELが稼働していて、会議初日に見学ツアーが行われた。SPring-8/SACLAに比して、PETRA-III/Euro-FELの施設規模の大きさが印象的であった。素粒子科学のための加速器技術を放射光科学に転換したDESYの歴史は、既存のインフラを有効利用するという正の側面とそれに伴い拘束条件が多くなるという負の側面もあると感じた。対してSPring-8/SACLAは拘束条件が少ないため、1つの入射器の併用、施設規模のコンパクト化等により、予算規模が小さいにも関わらず同等以上の性能を有している。このことは、SPring-8/SACLAの誇るべき点であると感じた。
参考文献
[ 1 ] 15th Internal Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation, https://www.sri2024.eu
[ 2 ] https://www.desy.de
[ 3 ] https://photon-science.desy.de/news_events/news_highlights/60_years_of_accelerated_research_with_synchrotron_radiation_at_desy/index_eng.html
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