理事長室から 高輝度光科学研究センター理事長就任にあたって
中川 敦史 NAKAGAWA Atsushi
(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

6月18日より、雨宮慶幸前理事長の後を受けて、高輝度光科学研究センター(JASRI)理事長に就任しました。NanoTerasuの本格稼働やSPring-8-IIへの高度化に向けた重要な時期に着任することになり、身の引き締まる思いです。
SPring-8/SACLA/NanoTerasuという3つの特定放射光施設にまたがる登録施設利用促進機関であるJASRIは、放射光を利用する全ての研究・開発・分析における利用支援とそのために必要な技術開発を行うこと、優れた研究課題を公平性と透明性をもって選定することをミッションとしています。これらを通して、3つの施設を有機的につなぐノードとして、ユーザーと施設の関係をより緊密なものとすることで、放射光科学を牽引していくとともに、放射光をツールとして我が国の科学が発展していくことに貢献できればと考えています。
私が高エネルギー物理学研究所・放射光実験施設(Photon Factory)の助手として放射光の世界に飛び込んでから40年近くになりますが、この間、放射光および関連するサイエンスは大きく変化してきました。第2世代放射光施設であるPhoton Factoryが建設された当時は「夢の光」と呼ばれていましたが、現在、放射光は、電子の可視化ツールとして軟X線から硬X線領域を中心とした波長の光を使った研究・開発に不可欠なものとなっています。研究分野によっては、水や空気のような存在ともいえる状況になっていると思います。放射光を利用した測定技術も大きく進歩しており、測定に関しては自動化がどんどん進み、分野によっては放射光や測定方法を知らなくても試料さえ準備できれば必要なデータが得られるようになり、また、それに伴って膨大なデータが短時間に得られるようになってきました。X線自由電子レーザー施設SACLAに加え、第4世代放射光施設であるNanoTerasu、現状の100倍以上の輝度が得られる高エネルギー領域の第4世代放射光光源SPring-8-IIを利用できるようになる事で、赤外線から硬X線に至る幅広い波長領域の光を使ったすべての研究領域での、さらに大きなブレークスルーが期待されています。また、様々な素材・素子・材料などの分析などについても、これまで得られなかった情報が得られるようになり、そこから得られる詳細な特性評価に基づいた革新的なデバイスの開発につながる事も期待されます。
一方で、いろいろな研究分野での共通の問題点とも考えていますが、専門性の高さに反比例する形で視野が狭くなっていく傾向があるように思います。今後のさらなる科学の発展には分野間の垣根を越え新たな領域を開拓する異分野融合が重要ですが、施設関係者とユーザーの間を有機的につなぐ事で、両者の協調によるシナジー効果を引きだす事が、放射光施設のノードとしてのJASRIの役割であると考えています。
これまでは、1ユーザーあるいはユーザーコミュニティであるSPRUC(現:SpRUC)関係者として、専用ビームライン担当者として、またJASRIのSPring-8/SACLA選定委員や評議員として、いろいろな立場でSPring-8やSACLAに関係させていただいてきました。これまでの経験を基に、ユーザーの皆様、施設の皆様のご協力を頂きながら、電子の可視化ツールとしての「夢を視る光」として、SPring-8/SACLA/NanoTerasuの発展およびそれらの施設を利用されるユーザーの方々の研究・開発の一助となるように尽力していきたいと考えています。これからどうぞよろしくお願いします。
