放射光応力評価の実用化に関する研究会 第8回

今回は、 SPring-8利用シンポジウム「放射光による応力評価の実用化」 として、開催した。

主催 : SPring-8 利用推進協議会研究開発委員会

共催
:日本機械学会応力評価の実用化に関する研究会
     日本材料学会X線材料強度部門委員会
     SPring-8利用者懇談会「応力評価」サブグループ

後援 :(財)高輝度光科学研究センター、(財)ひょうご科学技術協会

日 時: 2005年  7 月 1 日( 金 ) 1 0 :00~17:00

場 所: メルパルク大阪 5F カナーレ

第3世代の放射光施設 SPring-8の高輝度・高エネルギー・高指向性を利用して、基礎科学から産業応用に渡る広い分野で、半導体、金属、セラミックス、複合材料などのあらゆる物質のミクロ・ナノ構造と機能が解明されつつあります.本シンポジウムはSPring-8の高品位X線を利用して、材料の表面・界面・内部の応力を詳細に評価する方法を、構造材料の疲労や破壊強度の評価、新材料、高機能材料、表面改質などの産業分野へ実用化を促進することを目的とした。

シンポジウムでは、放射光による応力測定の基礎から、現在進みつつあるいくつかの分野における、実験法・評価法および放射光活用のメリットや応用例について、分り易く説明し、これらの話題提供を基に、き裂・破壊・疲労寿命の予測や、薄膜・コーティング・ピーニングなどにおける新材料・新技術開発に関する産業分野へ実用化について討論した。

出席者: 52名(講師も含む)

●プログラム
1.放射光による応力測定法  10:00~11:30
1-1.放射光応力測定の基礎

名古屋大学大学院 工学研究科  田中 啓介

概要: 放射光により多結晶体の応力を測定するために基礎として,X線によるひずみ測定法,応力算出法, sin2ψ法,実験法などについて説明して,応力測定技術の全体像を把握するとともに,放射光応力測定の特徴を明らかにする.ついで,侵入深さ一定法,散乱ベクトル一定法,低角入射X線法,高温X線測定法,2次元検出器の利用,さらに単結晶応力測定法など最新のX線応力測定技術の特徴と展望について述べる.

1-2.ひずみスキャニング法

名古屋大学大学院 工学研究科   町屋修太郎

概要:高エネルギー放射光を用いたひずみスキャニング法についての概要を紹介する.この方法は,高エネルギーの入射X線束と受光側のスリットで作られたゲージ 体積の平均ひずみを測定する.しかし,ゲージ体積が試料からはみ出ている場合には,ピークがシフトして見かけのひずみが測定されることが指摘されており,表面効果と称されている.本研究では表面効果を補正する手法として,受光側にダブルスリットを用いて回折強度を低下させることなく,かつ解析的な手法を提案する.

2.微小部応力、応力マッピング  11:30~12:30

2-1.微小領域応力マッピングによる疲労き裂進展挙動の評価

名古屋大学大学院 工学研究科  秋庭 義明

概要:疲労き裂の進展特性を評価するためには,き裂まわりの応力分布を精度よく測定することが不可欠である.き裂先端近傍では応力の特異性のために急激な応力勾配が存在するため,これを精度よく測定するためには局所領域の応力測定が必要となる.ここでは,超細粒鋼および繊維強化複合材料を対象として,き裂まわりの応力分布を測定するとともに解析結果と比較することから,き裂伝ぱ挙動について検討した結果について述べる.

2-2.セラミックスのき裂先端近傍の応力マッピングによる靭性評価

静岡大学 工学部  坂井田 喜久

概要:セラミックスのき裂は粒界相を進展することが多く,破壊靭性挙動を正しく評価するためにはき裂先端の応力場の把握が不可欠である.ここでは,多結晶アルミナを測定対象として,き裂先端近傍の応力場をその場測定する技術を紹介するとともに,実際の応力測定例と破壊靭性挙動を評価した結果について述べる.

【 昼食: 12:30~13:30

3.表面改質材への適用  13:30~15:00

3-1.ナノサイズ薄膜の応力評価

徳島 大学  工学部 英 崇夫

概要:スパッタリング生成したアルミニウム膜の加熱冷却過程における熱応力挙動をSR光によりその場測定した。マイクロメートルから数10ナノメートルの膜厚の違いおよび保護膜の有無による熱応力挙動の差を検討する。膜厚がマイクロメートルサイズの場合、保護膜がなければ膜応力の緩和が起こるが保護膜付きの場合は塑性変形のみが影響する。ナノメートルサイズになると、塑性変形が抑制され熱応力変化は弾性的になる。

3-2.コーティング、TBCの応力評価

新潟大学 教育人間科学部  鈴木 賢治

概要:プラズマ溶射, EB-PVDなどの遮熱コーティングを中心にして、高エネルギー放射光によりコーティング材の残留応力評価の方法についてこれまでの成果をまとめて報告する。また、3次元の残留応力評価から、コーティング材の材料挙動の特性を解明できることを報告する。

3-3.ピーニング施工部の応力評価

(株)東芝  電力・社会システム技術開発センター   佐野 雄二

概要:ピーニングは産業界で広く普及している技術であるが、残留応力の発生メカニズムについては十分に理解されていない。レーザピーニングは1ショット毎の条件を厳密に制御できるため、1ショットで形成される残留応力分布を SPring-8の細束X線を使用して測定した。また、透過力の高いSPring-8の高エネルギーX線を使用して、表層の残留応力深さ分布を非破壊で評価した。

 

【 コーヒーブレーク: 15:00~15:10

4.実用化への展開  15:10~16:40

4-1. 固体酸化物形燃料電池の温度及び酸化還元サイクルに伴う内部応力の変化

(放射光を用いたその場測定による評価)

東邦ガス㈱基盤技術研究部  鵜飼 健司

概要: 固体酸化物形燃料電池は、高い発電効率と利用価値の高い排熱が得られることから次世代のコジェネレ-ションシステムへの展開が期待されている。しかし、電池自体がセラミックスで構成されていること、異種材料を焼結させたものであるため、温度や酸化還元サイクルなどによりセルに破損が生じる場合がある。そこで、放射光 X線を用い、温度や酸化還元サイクルによる電池の内部応力の変化を調べたので報告する。

4-2.工具用硬質被膜の応力深さ分布測定

三菱マテリアル㈱  土屋 新

概要:鉄系材料の切削加工にはセラミックス被膜をコーティングした超硬工具が広く用いられているが、被膜 /基材界面近傍の残留応力は被膜の耐剥離性に影響するため、その状態を把握し、制御することが望ましい。今回は被膜と基材の間に熱膨張係数の異なる中間層を挿入し、界面近傍の応力深さ分布を侵入深さ一定法で測定した結果を報告し、併せてX線照射面積制御の効果、侵入深さ一定法を採用するに至った経緯についても紹介する。

4-3.プリント基板の金属配線部の残留応力の非破壊測定

㈱デンソー   浅井 洋光

概要: プリント基板の金属配線部(銅箔など)では、使用環境中の温度変化などで繰返し温度変化を受けるため、熱サイクルに対する信頼性が重要である。しかし、従来の実験室におけるX線応力測定法ではX線の浸入深さが浅くまた回折強度も弱いため評価が困難である。今回、 SPRING8の高エネルギおよび高輝度放射光を利用して基板表面および内部の金属配線部の残留応力を非破壊的に測定したので、その結果について報告する。

5. SPring-8と応力評価研究会 16:40~17:00

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部  古池 治孝