放射光を用いたペロブスカイト太陽電池向け高機能材料の解析 No.057
放射光を用いたペロブスカイト太陽電池向け高機能材料の解析
成果のポイント
- 次世代太陽電池として期待されている、ペロブスカイト太陽電池の光耐久性に関わるメカニズムの解明に貢献
- ペロブスカイト太陽電池の量産安定性および耐久性を向上させる高機能材料(フタロシアニン膜)を開発
研究・開発機関:キヤノン株式会社
SPring-8の活用
背景
脱炭素社会の実現に向けた有効な手段の一つとして、太陽電池の利用拡大が進んでいます。現在の主流となっているシリコン型太陽電池は、家庭用から事業用まで多くのソーラーパネルで採用されていますが、ガラスなどを基板に用いるため、重量に耐えられる強度のある場所にしか設置できないことが課題に挙げられています。これに代わる、次世代の太陽電池として注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池です。軽量で曲げられるほか、室内光でも発電できるため、シリコン型と比較して設置の自由度が高くなります。さらに、大掛かりな製造装置を必要としないため、設備投資コストの抑制も期待されています。しかし、ペロブスカイト層(光電変換層)中の結晶構造は、大気中の水分、熱、酸素などの影響を受けやすく、ペロブスカイト結晶構造が崩れ、耐久性が低いことが知られています。また、大面積のペロブスカイト太陽電池は量産安定性が低いという課題があります。これらの課題を解決するには、光電変換層を被覆し、ペロブスカイト層の結晶を保護する膜の重要性が認識されていますが、従来の手法では膜厚が薄すぎるために耐久性の向上効果が限定的であり、さらに膜厚の制御が困難であることから再現性に課題がありました
成果の詳細
我々は、光電変換層の被覆層としてp型半導体の性質を有するフタロシアニン系材料がペロブスカイト層の結晶構造を維持する作用がある事に着目しました。高輝度のX線が利用可能なSPring-8のビームラインBL19B2を用いた2次元微小角入射広角X線散乱(2D-GIWAXS)*測定により、フタロシアニン膜の結晶性と配向性を評価しました。その結果、フタロシアニンは高い結晶性と電気伝導性を有するため、従来の手法よりも圧倒的に厚い膜(100-200nm)を形成しても、ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率を維持できることが明らかになりました。また10万Lx相当の光照射に対する耐久性試験を行った結果、ペロブスカイト層上へのフタロシアニン層の積層により、性能劣化を大幅に低減できることが明らかになりました。
結果
フタロシアニン膜の結晶性及び配向性評価
フタロシアニン層をシリコン基板上およびペロブスカイト層上に積層し、2D-GIWAXS測定によりフタロシアニン結晶の配向性を調査しました。2D-GIWAXS測定で得られた2次元回折パターンより、フタロシアニン膜は高い結晶性を有しており、電気伝導性を示すπ-πスタック構造が確認できました。また、シリコン基板上、ペロブスカイト層のどちらの場合にもOut-of-plane方向にq = 0.58 Å-1, 方位角20°の方向にq = 0.53 Å-1の回折ピークが観察され、b軸が基板に垂直に配向していることが明らかになりました。また、明瞭な回折ピークが観察されたことからも、フタロシアニンは高い結晶性を有することが示されました。これらの結果は、フタロシアニン層の有効性を示すともに、更なる高性能化に向けた指針を与えています。[1]
今後の展開
本実験の結果から、p型半導体の性質を持つフタロシアニンは高い結晶性と電気伝導性を有するため、従来の手法よりも圧倒的に厚い膜(100-200nm)を形成可能な高機能材料であることを見出しました。従来の材料では光電変換効率が落ちるため被膜を薄くせざるを得ませんでしたが、フタロシアニンは光電変換効率を維持したまま従来よりも厚い被膜層を実現できるため、ペロブスカイト太陽電池の特性を維持しつつ量産安定性および耐久性向上が期待されます。今後、さらなる技術開発を進め、ペロブスカイト太陽電池の普及に貢献してまいります。
参考文献
[1] T. Ohsawa et al., A phthalocyanine-based polycrystalline interlayer simultaneously realizing charge collection and ion defect passivation for perovskite solar cells, J. Mater. Chem. A, 2024, 12, 22510-22515,
https://doi.org/10.1039/D4TA02491E
用語解説
・GIWAXS(微小角入射広角X線散乱):
サンプルの表面のすれすれにX線を照射し、2次元検出器を用いて散乱X線を検出する方式。GIWAXSはすれすれにX線を入射するため、基板の影響を受けにくく、サンプルの散乱強度を大きくとれる利点がある。サンプル表面に対して垂直方向の散乱ベクトル(qz)をout-of-plane方向、平行方向の散乱ベクトル(qxy)をin-plane方向をとる。散乱像を解析することで配向異方性について解析することが可能である。
【関連情報】
- 関連ビームライン:BL02B1、BL19B2
- 掲載日:2024年10月2日



