自動車排ガス浄化触媒の細孔を視える化~貴金属使用量の低減に貢献した放射光解析~ No.048

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自動車排ガス浄化触媒の細孔を視える化~貴金属使用量の低減に貢献した放射光解析~ No.048

自動車排ガス浄化触媒の細孔を視える化

~貴金属使用量の低減に貢献した放射光解析~

成果のポイント

  • 放射光X線を用いて、排ガス浄化触媒内部のミクロな細孔を可視化し、定量的に評価する技術を構築
  • 細孔のつながりが触媒内部におけるガス輸送現象に及ぼす影響を解明
  • 自動車排ガス浄化触媒の細孔制御技術の開発に活用

研究・開発機関:(株)豊田中央研究所、トヨタ自動車(株)

SPring-8の活用

背景
 自動車排ガスには窒素酸化物、一酸化炭素などの多くの有害物質が含まれています。また近年自動車における排ガス規制が大幅に強化されており、これらの規制に対応するため、“自動車排ガス浄化用触媒コンバータ”の装着が必須となっています。排ガス中の有害物質は、このコンバータを通過する際に、触媒コート層のµmスケールの細孔内部を拡散し、さらには細孔表面においてPt、Rhなどの貴金属微粒子と反応して浄化されます。しかし排ガスがコンバータ内を流れる際、コート層の深いところほど有害物質の濃度が低下し、貴金属の利用効率が低下します。これらを防ぐためには、触媒コート層の細孔を制御して、より奥深くの貴金属の利用効率を向上させる必要があります。この細孔を制御するには、まず細孔自体の形状を理解する必要がありますが、細孔は三次元状に入り組んだ複雑な形状のため、これまでの技術では直接見ることができませんでした。

成果の詳細
 そこで、細孔特性と浄化反応の関係を理解し、自動車排ガス用浄化触媒が有する課題に則した開発指針を得るため、放射光を活用した解析技術の構築に取り組みました。具体的には①細孔の三次元形状の解析、および②細孔形状とガス流れの関係の分析を行いました。方法としては、実際の触媒コート層から数百µm程度の試料片を切り出し、SPring-8のX線Computed Tomography(CT)法*を活用して行われました。これらのことから、触媒コート層のミクロの細孔を“視える化”することに成功しました。さらに、“視える化”した細孔からガス流れを予測することが可能となりました。これらの得られた結果を総合して、触媒コート層における細孔を制御する指針が得られました。
 本技術は、2017年にトヨタ自動車より販売されたガソリンエンジン車用排ガス浄化触媒の設計に活用され、高性能化・低コスト化に貢献しました。


結果

ガソリンエンジン車用排ガス浄化触媒コンバータ

 触媒コンバータは、多くの場合、自動車のエンジン直下および床下に装着されています。コンバータ内部を排ガスが通過するときに、窒素酸化物(NOx)などの有害成分が、触媒コート層のµmスケールの細孔内部を拡散し、触媒中の貴金属(Pt、Rhなど)微粒子の表面で化学反応を起こして、窒素(N2)などの無害なガスに変換されます。より多くの有害成分を浄化するためには、より深くガスを拡散させて、コート層の奥の貴金属を有効利用することが重要です。

図1:自動車排ガス用浄化触媒コンバータの装着位置、および触媒コート層内における深さ方向のガス拡散現象

図1:自動車排ガス用浄化触媒コンバータの装着位置、および触媒コート層内における深さ方向のガス拡散現象

細孔の可視化と豊田ビームライン(BL33XU)

 実際に使用されている触媒コンバータから、微細加工により幅0.5 mm×長さ3 mmの試料片を切り出し、細孔の三次元構造を高分解能かつ定量的に可視化するX線CT撮影技術を構築し、得られた三次元像から連通孔を抽出する技術を構築しました。排ガス中の有害成分は、連通孔内を拡散して触媒コート層の奥まで届くため、連通孔の“視える化”は重要な技術です。
 X線CT撮影技術は、まずはSPring-8の産業用専用ビームラインSUNBEAM(BL16XUとBL16B2)で基礎検討を行い、その後豊田ビームライン(BL33XU)内に設置されました。試料の微細加工技術、放射光X線の制御技術、高感度X線カメラシステムの開発、および画像処理・画像解析技術の開発により、世界トップクラスの解析技術が達成されました。

図2: (左)触媒コンバータから切り出した試料片、(右)実際の実験の様子

図2: (左)触媒コンバータから切り出した試料片、(右)実際の実験の様子

図3:触媒コート層の三次元像および内部の連通孔

図3:触媒コート層の三次元像および内部の連通孔

連通孔がガス流れに及ぼす影響の検証

 触媒コート層の連通孔の構造情報を用いて、コート層内のガス流れを予測する式を構築しました。

ガス流れを予測する式

 上式は、ガスの流れやすさである透過係数Kが、連通孔の「質」と「量」によって決まることを意味します。連通孔の「質」は、孔サイズdiおよび平均屈曲係数τで表現されています。連通孔の「量」は、有効空隙率εeffおよび連通孔の数nで表されます。なお、λはガスの性質である平均自由行程です。上式を用いることで連通孔の数・径・屈曲係数がガス透過性にどのように影響を及ぼすかを解析し、細孔構造を設計することが可能になりました。

細孔と材料を最適化した触媒の性能

 この開発品を従来品と比較した結果、開発品の有効空隙率は従来品の約2倍であり、さらには貴金属利用効率の低下が問題となる高負荷運転条件において、開発品が従来品よりも高い性能を示すことが出来ました。本技術を活用して細孔を制御した新型触媒は、2017年にトヨタ自動車より販売されたガソリンエンジン車の多くに採用されました。

図4:細孔と材料を最適化した触媒の性能と実用化した製品のカットモデル

図4:細孔と材料を最適化した触媒の性能と実用化した製品のカットモデル


用語解説

*X線Computed Tomography(CT)法
試料を回転させながらX線を照射し、試料から通り抜けてきたX線を検出器で読み取り、得られたデータをコンピュータで計算して内部の輪切り画像を作成します。それを重ね合わせることによって、立体的な画像を作ることが可能です。一般的には医療で活用されています。


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