固体高分子型燃料電池(PEFC)向けコアシェル型ナノ粒子触媒のフロー合成法の開発 No.047

Japanese | English

固体高分子型燃料電池(PEFC)向けコアシェル型ナノ粒子触媒のフロー合成法の開発 No.047

固体高分子型燃料電池(PEFC)向けコアシェル型ナノ粒子触媒のフロー合成法の開発

~コアシェル構造の精密解析に成功~

成果のポイント

※この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP16010)の結果得られたものです。

執筆者所属:国立研究開発法人産業技術総合研究所 / 先端素材高速開発技術研究組合 / 宇部興産株式会社

SPring-8の活用

背景
 クリーンな電源システムとして注目されている固体高分子型燃料電池(PEFC)※3の普及拡大には、正極の触媒(カソード触媒)として用いられているプラチナ(Pt)の使用量低減が必要不可欠です。その解決策としてPt等の使用量が少なくて済むコアシェル触媒の研究が活発に行われています。既存のコアシェル触媒合成法である銅-アンダーポテンシャル析出(Cu-UPD)法※4は、工程が非常に複雑かつバッチ式※5であるため、生産性が低いことが実用化に向けた大きな問題点となっていました。
 近年、フロー合成法は、連続生産が可能で生産性の高いプロセスとして注目されています。そこで、高い生産性および高度な触媒構造制御を両立した合成法の確立を目的として、コアシェル触媒のフロー合成法の開発を行ってきました。その結果、2019年にはパラジウム(Pd)コアPtシェル(以下“Pd@Pt”と略)触媒のフロー合成に成功※6しました。しかし、合成した触媒は、コアシェル構造であると確認できたにもかかわらず、Cu-UPD法合成触媒に比べ活性が低いという課題がありました 。

成果の詳細
 そこで、SPring-8のBL14B2にて合成したPd@Pt触媒のXAFS分析※7を行ったところ、透過型電子顕微鏡(TEM)における観察ではコアシェル構造をもつものの、平均すると不均一なシェル構造を取っていることが分かりました。低活性の原因はPtシェル構造の制御不足であることが明らかとなったため、Ptシェル形成段階の条件最適化を行いました。
 最適化すべきプロセス条件は多岐にわたることから、ハイスループットフロー合成装置※8を用いて各種条件を迅速に評価しました。その結果、Pt前駆体の還元速度がPtシェル形成に大きな影響を与えることを見出し、還元剤として2-メチルピリジンボラン錯体を用いることで、Cu-UPD法合成触媒に匹敵する活性を示す触媒の合成に成功しました。この触媒のXAFS分析より、合成した触媒は均一な1原子層のPtシェルを有することが確認されました。また、TEMでもXAFS分析結果を裏付ける1原子層のPtシェルを有する粒子が観察されました。
 本フロー法はCu-UPD法と遜色ない活性を有する触媒の合成が可能であり、さらにラボレベルで10倍以上高い生産性が見込めることから、Cu-UPD法の代替となりえるコアシェル触媒の合成法であることが確認されました。


結果

①ハイスループットフロー合成装置を用いた条件最適化 ※9

①ハイスループットフロー合成装置を用いた条件最適化

 ハイスループットフロー合成装置を用いることで、1日当たり数十種に及ぶ各種コアシェル型触媒の連続・自動合成が可能となります。本装置を活用することで、金属前駆体や反応剤、添加剤の種類、接触効率、滞留時間などのプロセス条件を迅速に評価しました。

②コアシェル触媒のXAFS分析

②コアシェル触媒のXAFS分析

 産業用ビームラインBL14B2を使って、コアシェル触媒のXAFS分析を行いました。Pt-LIII吸収端のEXAFSスペクトル(右図)のfitting分析の結果、Pt-Pt配位数が5.6、Pt-Pd配位数が2.4であることが示され、平均構造としても1原子層のPtシェル※10を有することが確認されました。

③コアシェル触媒のTEM分析 ※9

③コアシェル触媒のTEM分析

 コアシェル触媒のTEM-EDS画像(図A)より、この粒子がPdコアとPtシェル構造で構成されていることが確認されました。さらに、EELSライン分析(図B)の結果、Ptシェルの厚さが約0.25 nm(Ptの原子径は0.28 nm)であることから、この粒子が1原子層のPtシェルを有していることが示唆されました。


【注釈】

※1 コアシェル型ナノ粒子
触媒粒子の外表面(シェル)部分と、粒子の内部(コア)部分の組成が異なるナノ粒子です。例えばPdコアPtシェル(Pd@Pt)ナノ粒子を触媒として使用する場合、活性点である粒子表面のみにPtが存在することから、Pt使用量低減が可能となります。

※2 フロー合成
筒状のカラムを反応器として、その一方の入口から出発原料の溶液を連続的に供給して目的の反応を進行させ、その反対側の出口から生成物が連続的に排出される流通式の反応プロセスです。

※3 固体高分子型燃料電池(PEFC)
電気化学反応によって燃料の化学エネルギーから発電する燃料電池の一種で、電池イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)が電解質として用いられ、100℃以下の低温で動作する特徴があります。

※4 銅-アンダーポテンシャル析出(Cu-UPD)法
バッチ法にて、コアシェル型触媒を合成する手法です。Cuイオン含有電解液中で、Cuの酸化還元電位よりも貴な電位を印加してPd含有粒子表面にCuを析出(アンダーポテンシャル析出)させ、さらにPtイオンを含有する溶液に浸漬し、イオン化傾向の違いを利用してCuをPtで置換して、Pd粒子がPtで被覆されたコアシェル型触媒を合成します。

※5 バッチ式
全ての原料などを反応容器に投入し、物質の反応がすべて終了した後に生成物を取り出します。これを繰り返すことで化合物が合成される反応方式です。

※6 Pd@Ptナノ粒子のフロー合成法を開発
テーマ名:「多次元高度構造制御金属ナノ触媒の研究開発」
参考:「2019年度超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)成果報告会」発表資料
Y. Hashiguchi, F. Watanabe, T. Honma, I. Nakamura, S. S. Poly, T. Kawaguchi, T. Tsuji, H. Murayama, M. Tokunaga, T. Fujitani, Continuous-flow synthesis of Pd@Pt core-shell nanoparticles, Colloids Surf. A Physicochem. Eng. Asp., 2021, 620, 126607 DOI: https://doi.org/10.1016/j.colsurfa.2021.126607

※7 XAFS分析法
X線吸収スペクトルを測定して、物質等の原子の価数や局所構造を元素選択的に評価できる分析手法です。

※8 ハイスループットフロー合成装置
高度に自動化され、短時間に多数の触媒を合成することが可能な装置です。

※9 ハイスループットフロー合成装置図およびTEM分析結果
装置図およびTEM分析結果の写真は下記のニュースリリースより引用しました。
連続・自動合成法でPEFC向け高性能触媒の合成に成功、高効率合成も実現 ―燃料電池の白金コスト大幅低減を目指す―

※10 平均構造として1原子層のPtシェル
Pd上に1原子層のPtシェルが形成された場合、理論的にはPt-Pt配位数は6、Pt-Pd配位数は3となります。ナノ粒子においても、例えば下記の文献では粒子径3.5nm、1原子層のPtシェルを有するPd@Ptナノ粒子の場合、Pt-Pt配位数は6、Pt-Pd配位数は3となることが報告されています。今回合成した触媒の配位数もこれらの値に近いため、1原子層のPtシェルを有していると示唆されます。
参考:K. Sasaki, J.X. Wang, H. Naohara, N. Marinkovic, K. More, H. Inada, R.R. Adzic, Recent advances in platinum monolayer electrocatalysts for oxygen reduction reaction: scale-up synthesis, structure and activity of Pt shells on Pd cores, Electrochim. Acta, 2010, 55, 2645 DOI: https://doi.org/10.1016/j.electacta.2009.11.106


【関連情報】

  • 関連ビームライン:BL14B2
  • 掲載日:2022年3月10日

PAGE TOP