アルミニウム合金の引張その場放射光単色X線CT No.046

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アルミニウム合金の引張その場放射光単色X線CT No.046

アルミニウム合金の引張その場放射光単色X線CT

成果のポイント

  • 引張により試料内部に発生する空孔を追跡観測
  • 放射光をもとにした単色X線を用いることで、X線CTデータの解析が容易に
  • 試料外観で"くびれ"が生じ破断に至る過程で、試料内部の空孔サイズが急激に大きくなることを定量的に観測

研究・開発機関:産業用専用ビームライン建設利用共同体 イメージングサブグループ
(代表執筆:コベルコ科研、住友電気工業、東芝、三菱電機、電力中央研究所)

SPring-8の活用

背景
 産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)[1]では、産業用専用ビームラインSUNBEAM(SPring-8のBL16XUとBL16B2)を運営・利用しています。サンビーム共同体は企業グループ13社(企業12社および電力グループ)で構成され、XRD、XAFS、XRF、HAXPESといった手法を用いて各社の材料開発に役立てています[2]。サンビーム共同体の特徴として、参画企業が個別に放射光利用実験を行うだけでなく、分析手法や役割に応じたサブグループを結成していることが挙げられます。イメージングサブグループもその一つですが、サブグループ活動では企業間で協力しながら放射光を利用する分析技術の開発・導入や安全衛生の維持・向上などを行っています。

 X線イメージングの一つであるX線CTは、非破壊で試料の内部構造を視覚化でき、材料や構造物の観察に多用されています。近年、X線CTについても試料の動的な変化を追跡する"その場"測定が行われています[3,4]。今回、サンビーム共同体における放射光を用いたその場測定に関する分析技術導入の一環として、X線CT用の引張試験機(Deben社製 CT500)[5]をお借りし、引張試験中の試料の内部構造変化を放射光単色X線CTにより追跡することで、その有用性の検証を行いました。

成果の詳細
 引張その場X線CTはサンビーム BL16B2 にて実施しました。試料には、建築用サッシや自動車部材として利用されているアルミニウム合金を用いています。輸送機では、CO2排出量削減が求められるなか、燃費改善のための軽量化の開発が行われています。ここでは、従来の鋼材に加え、より密度の小さなアルミニウム合金の利用が進んでいます。今後、アルミ部材の利用による軽量化を促進するためにはアルミニウム合金の高靭性化が必要で、その破断プロセスの詳細などを把握する必要があります。
 今回のテスト試料には市販の6000系アルミニウム合金を用いました。破断直前までの引張過程におけるその場観測により、試料内部に発生する空孔のサイズや分散状態を、定量的に試料伸び量と関連付けることができました。アルミニウム合金の破断は空孔の集積によると考えられていますので、その挙動を把握できるその場放射光白色X線CTは、材料破壊のメカニズムの理解を通し、靭性の改善に役立つと期待しています。
 今回導入した手法は、比較的X線を通しやすい様々な軽元素系の材料について適用でき応用範囲が広く、サンビーム共同体参画企業での材料開発に資すると考えています。


結果

試料の変形とX線CT像の変化

試料の変形とX線CT像の変化

 試料に与えた引張に対する引張荷重-試料伸び曲線(黒線)を示します。なお、引張試験片の引張前の断面積は約1.0 mm2 であり、図中の赤点はX線CTを測定した点です。この曲線において試料伸びが 0.20 mm 程度までは、伸びに対し荷重が直線的に増加しており、この領域では試料が弾性変形しています。さらに引張されると、伸び = 0.46 mm 付近から荷重が緩やかに下がりはじめ、伸び = 0.77 mm を過ぎたあたりで試料が破断し荷重が 0 になっています。伸びが 0.20 mm より大きい領域で試料は塑性変形しています。塑性変形において、最大荷重を示した後の領域では"くびれ"が生じ、試験片が不均一に変形することが知られています。


引張過程のX線CT像の変化

 引張過程でのX線CT像の変化を示します。X線CT像の測定では、入射X線は 20 keV に単色化しています。またX線CTデータの空間分解能(ボクセルサイズ)は 1.3 µm です。左像と右像は、それぞれ引張方向に平行な面と垂直な面の断面像です。なお、右像は、左像の上下中央付近の断面像です。図右上の数値(赤字)は、上述のX線CT測定点に対応しており、X線CT測定では試料の伸び量を固定しています。試料が引張されると、右像より次第に断面積が小さくなることが分かります。また荷重が下がり始める測定点7あたりから、左像より試料がくびれ始め、右像から不均一に変形していることが分かります。このようにX線CT像では、引張荷重-試料伸び曲線と対応する試験片形状の変化を捉えることができました。

X線CT像の解析

X線CT像の解析
部位選択されたX線CT像

 上の動画では、試料内部に介在物*(白い粒状のもの)や空孔(黒い粒状)が観察されています。それぞれの部位を明確にするために、測定点12の右像について、試料の母材を赤色、介在物を黄色、背景・空孔を青色に着色して示しています。これらの像では、CT像のグレーバリュー(CT値)に適切な閾値を設け二値化により着色しています。

 単色X線を用いて測定したX線CT像におけるCT値は、入射X線のエネルギー、試料の組成・密度によって決まる線吸収係数**を元にした相対値で決まり、同じ材質を持つ部位のCT値が等しく表現されるという性質を持つようになります。一方、一般的なX線CT装置では入射X線に白色X線を利用しているため、ビームハードニングアーチファクト***が生じ、同じ材質を持つ部位であっても同じCT値で表現されません。例えば、背景が黒く調色されたCT像では、同じ材質をもつ試料であっても、その周辺部は白く、内部は黒く調色されることがあります。そのため二値化のような単純な手法では、同じ材質を持つ部位(介在物や空孔)を選別して着色するのは困難です。
 単色X線を用いる場合、X線CT像での部位の選別を数値的に簡便に行えるため、母材の断面積の算出や空孔の粒径分布などの解析を行う上で利点となります。さらに放射光を利用する場合、入射X線を単色化しても十分な強度を保つことが可能です。今回の測定では、測定時間が短くなることよりもX線CT像の画質を優先しましたが、12点分のX線CTデータの測定に3時間程度要しました。このように放射光を利用することで現実的な測定時間に収めることができます。

引張過程における空孔サイズの変化


試料内部の空孔分布
(図中のスケールの単位は µm)

試料伸びに対する空孔最大サイズの変化試料伸びに対する空孔最大サイズの変化

 試料内部の空孔について、測定点12でのX線CTデータから得た空孔分布(透視像)を動画に示します。この図では空孔を赤粒で、試料表面を青ネットで示しています。赤粒の大きさは空孔の大きさに対応します。この図より試料内部の空孔が、試料がくびれているところに、サイズの大きいものほど局在していることが分かります。またグラフに、各測定点で観測される空孔の最大サイズ(体積)を試料伸びに対しプロットしたものを示します。この各点に添えた数値(赤字)は、最初のグラフにおけるX線CT測定点に対応しています。これらから、試料がくびれ始める測定点7以降で空孔サイズが変化しはじめ、破断直前では急激に大きくなることが分かります。このように、材料破壊と相関があると思われる空孔サイズの変化を、試料伸びのような外的要因により変化するものと定量的に関連づけることができました。


[1] サンビームのHP: https://sunbeam.spring8.or.jp/
[2] サンビーム年報・成果集 vol.10 (2020) など、上記HPより参照できます。
[3] A. Hosokawa et al.; Int J Fract 181, 51–66 (2013).
[4] K. Murai et al.; Proceedings of the Combustion Institute, 38, 3987–3994 (2021).
[5] https://www.flex-service.com/products/microtest/ct.html


用語解説

*介在物
金属内部に存在する酸化物や硫化物のような、添加元素、不純物の複合生成物。6000系アルミニウム合金の場合は、Mg2Si や AlFeSi などがこれにあたる。

**線吸収係数
単色のX線が均一な材質をもつ試料を透過するとき、入射X線強度をI 0、透過X線強度をI、試料を透過するX線の光路長を t とするとき、I = I 0 exp(−µt) の関係が成り立つ。この関係での係数µが線吸収係数呼ばれ、長さの逆数(cm−1 や mm−1 など)の単位を持つ。

***ビームハードニングアーチファクト
X線ではエネルギーの低いものほど試料に吸収されやすくなる。入射X線が白色、すなわち様々なエネルギーを持つX線を含む場合、試料を透過したX線について、その光路長が長いほど、そのエネルギー分布は透過前に比べ高エネルギー側に偏る(ビームハードニング)。例えば均一な材質を持つ球状の試料でも、その中心を通るように透過したX線ほどエネルギー分布は高エネルギー側に偏るようになる。このビームハードニングによりX線CT像に偽像をもたらす、測定対象の材質を正確に反映しないCT値への影響をビームハードニングアーチファクトと言う。一般的なX線CT装置では、金属フィルタを用いることや、X線CT像の再構成時に解析的に処理することで、ビームハードニングアーチファクトを抑制させている。


【関連情報】

  • 関連ビームライン:BL16B2
  • 関連発表等:第18回SPring-8産業利用報告会
  • 掲載日:2022年3月1日

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