肌を守るボディウォッシュなどのスキンケアシリーズの開発 No.041

Japanese | English

肌を守るボディウォッシュなどのスキンケアシリーズの開発 No.041

肌を守るボディウォッシュなどのスキンケアシリーズの開発

成果のポイント

  • 肌において、界面活性剤が及ぼす角層への影響の過程を明らかに
  • 肌のうるおいの根源である「ラメラ構造」を壊さずに洗えるスキンケアシリーズを開発

研究・開発機関:クラシエホームプロダクツ株式会社

SPring-8の活用

背景
 人間の皮膚は、体を守るいくつかの機能を有し、そのうちひとつが保護作用で、体の水分の出入りを調節しています。皮膚表面の角層中にある細胞間脂質は、20 µm程度の薄い構造であり、“長周期ラメラ構造”、“短周期ラメラ構造”から構成される秩序構造を保っています。この構造の中で “長周期ラメラ構造”は、肌を保護する機能として重要な働きをしています。
 一方入浴などで用いる洗浄料(ボディウォッシュ)は、含まれる界面活性剤が、皮膚角層中の細胞間脂質に影響を与えることが知られています。特に洗浄料を用いた洗浄後の肌の水分蒸散量は、洗浄後15~20分後に大幅に増え、それに伴い肌の水分量も減ることが分かっています。肌が体の水分を保つ効果を壊さない洗浄料を開発するためには、界面活性剤が皮膚角層中の細胞間脂質へ与える影響について分子レベルで明らかにする必要があります。
 小角X線散乱測定*は物質の粒子径や間隔の構造、積層構造等、ナノメートルのサイズ・形状・構造相関などを非破壊で捉えるのに優れた手法です。しかし今回の様な細胞間脂質への小角X線散乱測定は、特にラメラ構造部の様な個所に関しては、回折ピークが得られにくいという課題がありました。

成果の詳細
 そこで、SPring-8の放射光を用いて分析を行いました。その結果、界面活性剤(今回はドデシル硫酸ナトリウム:SDS)が細胞間脂質における長周期ラメラ構造へのみ影響を与えることが分かりました。この測定には、高輝度放射光X線を用いた最適な条件設定と、試料を最適な状態で測定できる試料ホルダー(溶液セル)が寄与しました。
 今回の測定条件ではS = 0.1 nm-1からの観察範囲のため、長周期ラメラ構造の1次反射の回折ピークは範囲外で、また2次反射の回折ピークは、短周期ラメラ構造の1次反射の回折ピークに隠れ確認できないことから、明確に確認できる3次反射の回折ピークを解析に用いました。さらにSPring-8においては、微小試料を支持しその周りを溶液で満たした状態でX線散乱測定できる“溶液セル”が開発されています。これらを有効に活用して、界面活性剤のラメラ構造への影響を初めて明らかにしました。このような測定結果を受けて、長周期ラメラ構造、ひいては角層の損傷を抑止することを目的としたスキンケアシリーズの開発に成功しました。

■体の皮膚の構造

体の皮膚の構造

肌のうるおいを守る上で、皮膚表面の20 µm程度の薄い角層が重要な役割を果たしており、角層細胞と細胞間脂質が、何層にも積み重なった構造を形成して、皮膚のバリア機能を担っています。この細胞間脂質は、セラミド、脂肪酸、コレステロールなどの脂質と水分が分子レベルで交互に重なるラメラ構造をとっています。

■SPring-8における小角X線散乱測定

SPring-8における小角X線散乱測定

小角X線散乱測定によるラメラ構造の解析

短周期ラメラ構造と長周期ラメラ構造造

SPring-8にて、試料を水、SDS1%溶液およびSDS10%溶液に入れた溶液セルを用いて小角X線散乱測定を行うと、SDSは周期約6 nmの短周期ラメラ構造にはほとんど影響せず、周期約13 nmの長周期ラメラ構造に影響を与えることが分かりました。

SDS洗浄によるラメラ構造変化のイメージ図

SDS洗浄によるラメラ構造変化のイメージ図

■角質の損傷を抑止することを目指したスキンケアシリーズの開発

角質の損傷を抑止することを目指したスキンケアシリーズの開発

これら知見に基づき、長周期ラメラ構造の乱れを起こさない洗浄成分からなるスキンケアシリーズを開発することに成功しました。これは、皮膚表面の汚れを落とす泡タイプや細胞間脂質の成分を整えるセラミド配合のボディウォッシュが広く使われている状況下にあって、角層の損傷を抑止することを目指した製品であり、ボディウォッシュは2017年から「ラメランス」という商品名で発売しています。
 


用語解説

*小角X線散乱測定
基本的に、X線を物質に照射して散乱したX線のうち、散乱角が10°以下の低角領域に現れるものを測定し、物質の構造を評価する分析手法。


【関連情報】

PAGE TOP