ペロブスカイト太陽電池の光劣化メカニズムの解析 No.039

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ペロブスカイト太陽電池の光劣化メカニズムの解析 No.039

ペロブスカイト太陽電池の光劣化メカニズムの解析

成果のポイント

  • 次世代太陽電池として期待されている、ペロブスカイト太陽電池の光劣化メカニズムを解明
  • 光照射前後の電子輸送層とペロブスカイト層の界面、ペロブスカイト層と正孔輸送層の界面を調査
  • 光劣化メカニズムの明確化により、劣化抑制技術の開発指針を得た。

研究・開発機関:パナソニック株式会社

SPring-8の活用

背景
 ペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂教授のグループにより2009年に発表[1]されて以来、世界的に注目が集まっている新しい太陽電池です。当初報告された光電変換効率は3.8%でしたが、現在では25.5%まで達しており、僅か10数年で従来のシリコン太陽電池の記録(26.7%)に迫る勢いです[2]。ペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池とは異なり安価な塗布工程で作製できるというメリットもあります。しかし、ペロブスカイト太陽電池は、光照射により劣化が進むため、光耐久性を確保することが実用化への課題となっています。ペロブスカイト太陽電池はガラス基板上に透明導電膜(TCO)、電子輸送層(ETL)、ペロブスカイト層(pvsk)、正孔輸送層(HTL)、 Au電極を積層した構造になっており、pvsk自体の光耐久性はこれまで知られていましたが、積層による影響は定かではなく、対策のために様々な光誘起現象や光劣化メカニズムを解明する必要がありました。

成果の詳細
 そこで、SPring-8のBL16XU(サンビームID)HAXPES*(硬X線を用いた光電子分光)法を用いて、光照射前後のペロブスカイト太陽電池の接合界面の解析を行いました。HAXPESは表面から約50 nmの深さまで分析ができるため、劣化メカニズムにおいて重要な「ペロブスカイト太陽電池の各界面**の化学状態」を調べるのに適しています。その結果、長時間の光照射によりETL、HTLとpvskの界面近傍に反応生成物が増加していることが明らかとなりました。このような界面反応を抑制することが、“光劣化の改善”につながるという重要な指針を得ることが出来ました。

HAXPESサンプル:

 X線入射側の層の膜厚が、HAXPES測定の分析深さとほぼ同じになるように調整されたETL/pvsk(膜厚50 nm)、pvsk/HTL(膜厚50 nm)構造のサンプルを作製し、光照射前後の不可逆な変化を調べました。

HAXPES分析結果:


HAXPES分析結果

 HAXPES測定の結果、擬似太陽光スペクトルを6時間照射することによりETL/pvsk界面(左図)、pvsk/HTL界面近傍(右図)には、それぞれ0価鉛(Pb0)、0価ヨウ素(I0)が蓄積されており、特にHTL側では、界面欠陥へのヨウ化物イオン(I-)の拡散によって腐食反応が生じていることが判明しました[3]

ペロブスカイト太陽電池の光劣化メカニズム:

ペロブスカイト太陽電池の光劣化メカニズム

 HAXPES分析に加えて、インピーダンス測定***やマイクロ波光導電減衰法によるキャリア・ライフタイム測定を含めた網羅的な解析を行い、光劣化は光照射により励起された「電子が、ETL/pvsk界面において鉛イオンを0価鉛に還元する反応」と「正孔が、pvsk/HTL界面においてヨウ化物イオンを0価ヨウ素(恐らくI2)に酸化する反応」が「ペアで生じる」ことによると結論付けました[3]。この光劣化メカニズムが明らかとなったことで、光劣化抑制のための開発指針が得られました[3]
 


 本研究の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDOの委託を受け実施したものであり、関係者に感謝いたします。


参考文献:
[1] A. Kojima et al.: J. Am. Chem. Soc. 131 (2009) 6050.
[2] NREL Efficiency Charts, https://www.nrel.gov/pv/cell-efficiency.html, accessed 21.04.2021.
[3] T. Sekimoto et al., ACS Appl. Energy Mater. 2 (2019) 5039.

用語解説

*分光法(HAXPES)Hard X-Ray Photoelectron Spectroscopy
X線光電子 試料にX線を照射したときに放出される光電子のエネルギーを測定し、試料表面の化学組成や化学状態を分析する手法。照射するX線のエネルギーによって、分析できる深さが異なる。実験室ではAl-Kα線(1.4867 keV)等の軟X線が使われているのに対し、SPring-8の放射光では4–10 keVという高輝度高エネルギーの硬X線を使えるため、より表面から深い領域を分析できる。この硬X線を用いる光電子分光法は、特に硬X線光電子分光法(HAXPES)と呼ばれている。

**界面:均一な固体や液体同士が接している境界。

***インピーダンス測定:インピーダンスとは電圧と電流の比率で、対象物に電圧をかけ電流を測定する(またはその逆で電流をかけ電圧を測定する)こと。


【関連情報】

  • 関連ビームライン:BL16XU
  • 掲載日:2021年6月2日

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