自動車メタリック塗装の“その場”イメージング観察 No.36
自動車メタリック塗装の“その場”イメージング観察
塗装における光輝材の挙動を可視化
成果のポイント
- 自動車のメタリック塗装*における塗膜断面方向の塗膜形成過程を世界で初めて観察
- リアルタイム観察の結果、塗装直後はアルミフレーク**の配向角度に差は見られなかったが、時間経過と共に体積収縮及び粘度変化の影響を受けながら変化することを確認
研究・開発機関:ダイハツ工業(株)
SPring-8の活用
背景
近年、自動車の外装には、鋼板と共に樹脂が部分的に使われるようになりました。その中でメタリック塗装における鋼板と樹脂部品の色合わせが課題になっています。メタリック塗装中の微細なアルミフレークは、鋼板と樹脂部品では工程及び塗料の違いにより、それら配向角度に違いが発生し、塗装の明度や色味が変化していました。このことからアルミフレークの挙動メカニズムを詳細に解析出来る科学的アプローチが求められました。
光学顕微鏡による塗膜の観察では、平面視のみで明確な違いが判別困難でした。また走査型電子顕微鏡による観察では、配向角度の分布の差が色の明るさに影響を与えていることが分かりましたが、塗膜形成プロセスにおけるアルミフレークの挙動変化については、解析手法がありませんでした。
成果の詳細
そこで、時間分解能および空間分解能に優れているSPring-8の高輝度放射光によるX線イメージング観察を行いました。また塗装の時間経過観察と実際の工程に近づけるため、実験ハッチ内に実塗装が出来る装置を持ち込みました。
その結果、溶剤の希釈率や揮発速度の違いによって、塗装直後はアルミフレークの配向角度に違いは見られませんでしたが、時間経過に伴い塗膜が収縮しアルミフレーク配向角度に差が出ることが確認されました。さらに条件を変え、複層塗りの条件で観察した結果、塗装過程で粘度変化が生じ、それが原因でアルミフレークの挙動に影響を与えると推察されることがわかりました。これらの結果を生かして、自動車生産ラインにおける生産準備の短縮化も期待されます。
生産準備における自動車車体の色合わせ
自動車車体の軽量化を目的とした樹脂外板の採用拡大に伴い、生産工程の異なる車体の鋼板部と樹脂部への光輝材(アルミフレーク)を含む塗装については、複数回の塗装トライ・色合せ確認が必要となり、生産準備に時間を要する一因となっていました。
塗装断面の光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察
塗装部を光学顕微鏡で観察すると、鱗片状のアルミフレークの重なりが分かるだけで、明確な違いを判別できませんでした。
また走査型電子顕微鏡で観察すると、アルミフレークの配向角度に差があることは確認できましたが、塗膜形成プロセスにおけるアルミフレークの挙動変化については、解析手法がありませんでした。
SPring-8でのX線イメージング
SPring-8の産業利用 lllビームライン(BL46XU)ハッチ内に設置された塗装実験装置
SPring-8の産業利用 lllビームライン(BL46XU)実験ハッチ内に塗装実験装置を持ち込み、塗膜形成過程におけるアルミフレークの動的挙動を観察するため、標準塗料および希釈率、揮発速度を変更した塗料を塗装し、塗装後4.8秒後と180秒後のアルミフレーク配向角度を比較しました。その結果、溶剤希釈率や揮発速度の違いにより、塗膜形成過程におけるアルミフレークの配向角度に違いが見られました。
用語解説