窒化ガリウム超高速トランジスタの高出力・高速化〜メカニズムを解明し、さらなる実用化へ〜 No.33

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窒化ガリウム超高速トランジスタの高出力・高速化〜メカニズムを解明し、さらなる実用化へ〜 No.33

窒化ガリウム超高速トランジスタの高出力・高速化

メカニズムを解明し、さらなる実用化へ

成果のポイント

  • GaN-HEMT*の高周波動作の決定要因の一つである、表面電子捕獲の時空間挙動の直接観測及びそのメカニズム解明に初めて成功
  • 従来の電気測定評価法**では得られなかった情報についてSPring-8を用いて初めて解明

研究・開発機関 東北大学 電気通信研究所/住友電気工業(株)

SPring-8の活用

背景
 GaN-HEMT はGaNとAlGaN界面を電子輸送層として用いたトランジスタです。GaNとその上に成長させたAlGaNの界面では、電子は二次元的に閉じ込められており、高速で動きます。さらに、GaNはバンドギャップが大きいため、大出力化が可能です。GaN-HEMTは既に住友電工により実用化されていますが、更なる高性能化向けては未だ十分には解決されていない問題があります。最大の問題が、電流コラプス現象***です。この原因の一つが、デバイス表面の電子捕獲です。表面電子捕獲は、産業的にも重要であるばかりでなく、トランジスタ発明の際に勃興した表面物理学における核心的な研究課題です。通常の半導体デバイスの動作機構の解明には、巨視的な電気測定評価法が用いられますが、この方法では局所的な情報が得られないため、GaN-HEMTの電流コラプス現象に関与する表面電子捕獲の機構を解明することは困難でした。
 一方、SPring-8の軟X線固体分光ビームラインBL25SUではオペランド・ナノX線吸収分光****装置が設置され、トランジスタなどにおける微視的な電子状態の観察に成功しています。ただし、この分光は、充分な時間分解能がなく、これまで定常電圧下のみの測定に限られ、実際の高周波動作下での測定は困難でした。

成果の詳細
 今回、SPring-8の放射光X線のパルス性を活用したシステムを構築することで、オペランド・ナノX線吸収分光装置に高い空間分解能だけでなく高い時間分解能を賦与することに成功しました(最高分解能:<100 nm、<100 ps)。また本装置は、電圧印加下で電子状態観察が可能となり、分光測定と同時に電気特性評価が行える仕様になっています。
 本装置を用いた計測の結果、デバイス動作下でのGaN-HEMTの直接観測に初めて成功しました。その結果、GaN-HEMTの特性の決定要因の一つである表面電子捕獲の時空間挙動を初めて解明し、表面電子捕獲の詳細なメカニズムを明らかにしました。さらには、表面保護膜による特性向上のメカニズムをも詳らかにしました。これらの成果は、GaN-HEMTの更なる高出力化・高速化につながるものです。
 今後、得られた成果に基づき、電流コラプス現象を考慮した、デバイス・モデリングの研究を進め、GaN-HEMTが、第五世代移動通信システム(5G)やその次のBeyond 5Gのキーデバイスとなるべく研究開発を進めます。

GaN-HEMT 計測に用いたSPring-8の放射光X線のパルス性を活用したオペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光装置の概略図

GaN-HEMT 計測に用いたSPring-8の放射光X線のパルス性を活用したオペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光装置の概略図

オペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光実験結果

オペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光実験結果

(a)観測試料の像、 (b)印加電圧を切る直前の測定スペクトルの位置依存性、(c)1 µs 秒後 、(d) 27 µs 秒後、
(e) 34 µs 秒後のスペクトルの依存性。
(c)におけるRegion II(ゲート電極近傍ドレイン側)の測定スペクトルのみ弱化していることが分かる。

表面電子捕獲の時空間挙動を説明するメカニズム

表面電子捕獲の時空間挙動を説明するメカニズム

測定スペクトルの結果から、電圧印加直後における表面電子捕獲はゲート電極近傍のみで起こり、時間経過とともにゲート電極から離れた所へ電子がホッピングすると考えられる。


用語解説

*GaN-HEMT
GaN上にAlGaNを成長させたときに生じる界面のポテンシャルにより二次元的に閉じ込められた電子が、高速に動くことを利用した高速通信用トランジスタ。Xバンド(数GHz)やミリ波帯(数十GHz)で動作し、大きな電圧を印加することができ、高速性だけでなく、高出力性も兼ね備えている。

**電気測定評価法
電圧/電流を印加しながら電流/電圧の応答を測定して、電流対電圧や抵抗特性を得る方法。

***電流コラプス現象
トランジスタにおいて、高出力動作させようとするときに、出力電流が時間的に変動したり、低下してしまう現象。

****オペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光
光電子顕微鏡(PEEM)を用いてX線吸収分光法に高い顕微機能(分解能:<100 nm)を持たせ、デバイス動作下で測定する分光法。これにより、従来、膜の状態でしか測定出来なかった電子状態を、実際にデバイスが動作している状態で機能部位毎に調べることが可能に。


【関連情報】

  • 関連ビームライン:BL25SU
  • 掲載日:2020年12月16日

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