有機半導体材料の精密分子配向解析 No.026

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有機半導体材料の精密分子配向解析 No.026

有機半導体材料の精密分子配向解析

蒸着法においても優れた電気的特性を解明

成果のポイント

  • 有機半導体材料として優れた電荷輸送特性を示す化合物Ph-BTBT-10を用いて、蒸着法*により高移動度のトランジスタ素子を作製することに成功
  • 素子評価の結果、優れた電荷輸送特性(正孔移動度:> 10 cm2/Vs)を観測
  • 2次元微小角入射X線回折法(2D-GIXD法)**による蒸着膜の解析で、Ph-BTBT-10分子の高い移動度を裏付ける結晶構造(分子配列)を確認

研究・開発機関:東京化成工業(株)

SPring-8の活用

背景
有機半導体材料は、軽量かつ柔軟性に富むのが特長です。その特長を活かし、伸縮・折り曲げ可能な電子回路や皮膚に貼り付け可能なメディカルセンサーなど、次世代デバイスへの応用を目指して、有機トランジスタ(OFET)の研究開発が盛んに行われています。
 Ph-BTBT-10は、溶剤に可溶かつ耐熱性と成膜性、大気安定性を兼ね備えた液晶性有機半導体材料です。塗布法で作製したPh-BTBT-10のOFET素子が優れた正孔移動度(10 cm2//Vs以上)を示すことは、以前の研究1)にて報告されていました。本研究では、蒸着法で作製した素子においても、同レベルの移動度を示すことを見出しました。良好な電気物性が得られた要因を探るためには、蒸着法にて作製した有機半導体薄膜の構造解析を行い、蒸着薄膜内の結晶構造(分子配列)を明らかにする必要がありました。

成果の詳細
蒸着法によりPh-BTBT-10を用いたOFET素子の作製を行い、得られた素子のトランジスタ特性を評価しました。その結果、Ph-BTBT-10は蒸着過程においても熱分解せず使用可能であり、塗布法にて作製した素子と同等の優れた電荷輸送特性(正孔移動度:>10 cm2//Vs)を有することがわかりました。
 このときの蒸着薄膜の分子の並びを、SPring-8を利用した2D-GIXD法(二次元微小角入射X線回折法)にて解析しました。SPring-8から得られるX線強度は一般的なX線回折装置よりもはるかに強く、短時間かつ高精度で有機薄膜の分子の並びを解析することができるからです。解析の結果、蒸着法で作製した薄膜の結晶構造は、塗布法と同一の結晶構造(分子配列)を取っていることが示唆され、本蒸着素子の移動度の高さを裏付けることができました。

Ph-BTBT-10

Ph-BTBT-10は、特に優れた輸送特性を示すp型半導体材料(上図)で製品化(下写真)・販売されています。

Ph-BTBT-10

Ph-BTBT-10を用いて製作したOFET素子

シリコンウエハー(n+-Si/SiO2)の上にPh-BTBT-10の薄膜を形成し、その上に金(Au)を蒸着形成しています。シリコン(n+-Si)はゲート電極、二酸化ケイ素(SiO2)はゲート絶縁層、Ph-BTBT-10は半導体、金はそれぞれソース電極・ドレイン電極としての働きをします。

Ph-BTBT-10を用いて製作したOFET素子

OFET素子性能

作製したPh-BTBT-10の蒸着トランジスタ素子により、安定したp型半導体特性が観測されました(下表)。また、蒸着膜に対しアニール処理を行うことで、トランジスタ性能の大幅な向上が見られ、ODTS処理基板にて最大正孔移動度µmax =14.0 cm2//Vsの極めて良好な値が得られました。

OFET素子性能

2D-GIXD 解析結果

2D-GIXDのqz軸(白枠)方向の回折ピークより面外方向の層間距離を算出し、各基板温度時の蒸着膜中のPh-BTBT-10の分子配列を予測しました。得られた回折ピークから、アニール処理後の蒸着膜は塗布法で作製した膜と同一の結晶構造(分子配列)1)であることが示唆されました。

2D-GIXD 解析結果

参考文献 1) H. Ⅰino, T. Usui, J. Hanna, Nat. Commun. 2015, 6, 6828.

 

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用語解説

*塗布法(スピンコート法)と蒸着法 いずれも半導体薄膜を作製する代表的な手法です。塗布法(スピンコート法)は、半導体溶液を基板に滴下し、基板を高速回転(スピン)することで表面をコーティングする方法。一方の蒸着法は、薄膜にする物質を真空中で気化(蒸発)させ、基板表面に付着させる方法です。

**2次元微小角入射X線回折法(2D-GIXD法) 試料表面に対しすれすれの角度でX線ビームを入射すると、薄膜層からの微弱な回折信号を得ることができます。この手法を、「微小角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction : GIXD)」といいます。このときの回折信号を2次元で検出すると、試料の選択配向の評価を行うことができます。この2つを組み合わせたのが2次元微小角入射X線回折法(2D-GIXD法)です。


【関連情報】

  • 掲載日:2020年5月29日

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