急速冷却条件下における油脂結晶の相挙動を観察 No.023
急速冷却条件下における油脂結晶の相挙動を観察
分子間化合物形成のメカニズムを解明
成果のポイント
- マーガリン製造工程における、急速冷却条件下での油脂結晶の相挙動と多形変化をその場観察
- MC*形成に必要な冷却速度や冷却後の加熱温度を解明
- 製造条件の調整によりMC形成を制御できる可能性を示唆
研究・開発機関:ミヨシ油脂(株)
SPring-8の活用
背景
近年、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く含む食事を摂取した場合、心筋梗塞や糖尿病等のリスクを高めることが報告されています。しかし、食用油脂の混合物から製造されているマーガリンなどの油脂製品は、保形性や可塑性が必要なため、これらの含有量を低減すると物性に大きな影響を与えてしまうという現状があります。
そこで注目されているのがMCです。MCは健康効果が期待されるオレイン酸基を多く含みながらも、適度な硬さを持ち融点は室温以上のため、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の代替として期待されています。しかし、100 ℃/min以上とも考えられる製造工程における急速冷却条件下での結晶相の挙動については、明らかにされていませんでした。
成果の詳細
事前実験として、示差走査熱量計DSCを使用し、OPO:POPを1:1の割合で混合した試料を、冷却速度を変化させながら観察したところ、MC形成は冷却速度に依存し、40 ℃/min以上で大きく変化しました。
次に、この結果をもとに、数秒で変化する油脂結晶の挙動を短時間で測定できるSPring-8の高輝度な放射光を利用して、時間分割X線回折測定を行いました。試料を徐冷(5 ℃/min)、あるいは急冷(40 ℃/min)した後に加熱して、結晶相の挙動や多形変化を解析したところ、MC形成に必要な冷却速度や効率的なMCの形成温度が明らかになりました。その結果、冷却速度や製品温度の調整によって、MC形成を制御できる可能性が示唆されたのです。
マーガリンの製造工程
マーガリンは油相と水相を乳化した後、殺菌・急冷・練り工程等を経て、充填されます。
急冷・練り工程ではかき取り式熱交換器を使用し、この中で急激な冷却がかかります。その冷却速度は100 ℃/min以上と考えられています。
SPring-8における時間分割X線回折測定
産業利用Iビームライン(BL19B2)の小角散乱装置を使って、時間分割X線回折測定を行いました。
液体窒素を利用して、試料を100 ℃から-50 ℃まで徐冷(5 ℃/m i n)、もしくは急冷(40 ℃/min)した後、-50 ℃から100 ℃まで10 ℃/minで加熱しながら測定しました。
冷却・加熱条件を変えながらのX線回折測定
パーム油の主成分(POP)と豚脂の主成分(OPO)を1:1の比率で混合し、冷却・加熱条件を変えながら、100 ℃から-50 ℃の温度範囲で時間分割X線回折測定を行いました。
冷却や加熱によって生じる相変化、多形変化を解析することで、冷却速度によってMC形成を制御できる可能性が示唆されました。
①冷却速度5 ℃/min
強いMCの回折線が観察され、徐冷時にはMCが形成されることを確認しました。一方、POPとOPOの回折線も僅かに観察され、一部のPOPとOPOは単独で結晶化していることが考えられます。
用語解説
*MCa>
2種類の油脂の分子間に相互作用が働くことで形成される、単成分とは異なる結晶(分子間化合物)です。パーム油の主成分 (POP)と豚脂の主成分(OPO)を1:1の比率で混合するとMCを形成することが分かっています。
【関連情報】
- 関連ビームライン:BL19B2
- 掲載日:2020年3月24日