レーザーピーニングによる鋼材の表面改質技術を確立 No.017

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レーザーピーニングによる鋼材の表面改質技術を確立 No.017

レーザーピーニングによる鋼材の表面改質技術を確立

改質効果を高めるレーザー照射条件を最適化

成果のポイント

  • 金属表面での残留応力*の深さ分布を非破壊で測定し、レーザーピーニング**による表面改質における最適なレーザー照射条件を確立
  • 疲労による金属の割れの進展が、レーザーピーニングによって大幅に抑制できることを確認
  • レーザーピーニングは原子炉構造物のひび割れを抑制する技術として確立

研究・開発機関:(株)東芝

SPring-8の活用

背景
 ピーニングといえば、小さな金属球を打ちつけるショットピーニングがよく知られています。しかし、装置が大掛かりなうえ、金属球の回収が難しいため、原子炉内のような狭い個所のピーニングには向かず、小型化できる新しい技術が求められていました。
 そこで注目されたのが、高出力のパルスレーザーを使ったレーザーピーニングです。しかし、レーザー照射の効果を検証しようにも、従来のX線では材料内部や微細な領域の観察や、ごく表面の残留応力を測定することはできませんでした。

成果の詳細
 SPring-8 の放射光X線は透過力が高く、レーザーピーニング処理した材料の表面から内部までの状態を非破壊で測定することができます。その結果、金属表面に存在する引張残留応力がレーザーの照射によって圧縮応力に変化することが検証されました。また、レーザーの照射条件を変化させて残留応力の深さ分布を比較し、的確な照射条件を求めました。
 さらに、X線断層撮影(CT)を行ったところ、レーザーピーニング処理をした材料では疲労割れの進展が大幅に抑制されることが画像にはっきり表れていました。


レーザーピーニングの原理

水中の金属材料に、高出力のパルスレーザーを当てると、材料の表層がプラズマ化します。水中ではプラズマの膨張が妨げられますから、金属の表面に局所的にレーザーのエネルギーが集中し、衝撃波が発生します。この衝撃波で材料表面はわずかに変形しますが、まわりの部分に阻止されてある程度以上は変形できず、表面に圧縮応力が残り、強化されるのです。

レーザーピーニングの原理


残留応力の深さ分布

残留応力の深さ分布

改質したい面に対してレーザーをまばらに照射した試料Bでは、表面に引張応力が残っています。レーザーを密に照射した試料Aでは、表面および内部とも十分な圧縮応力がはたらいています。

アルミニウム合金に生じた疲労割れのX線CT像

アルミニウム合金に生じた疲労割れのX線CT像

レーザーピーニング処理を施した金属材料では、疲労割れ(中央部の白い部分)の進展が抑制されています。



用語解説

*残留応力 引張、圧縮、曲げ、熱処理などの外力を加えたことにより、外力を除いたあとにも物体内部に保持される応力。

**レーザーピーニング ピーニングは刀鍛冶の仕事に似ています。叩いて(peen)金属表面に圧縮応力を加え、内部の残留応力(引張応力)を打ち消し、圧縮応力に変えます。こうすることによって、溶接部などの疲労割れや応力腐食割れを防ぐことができます。レーザーピーニングは、強力なパルス状のレーザーを金属表面に照射し、発生するプラズマ(高圧ガス)の衝撃力で金属表面を圧縮して内部の残留応力(引張応力)を打ち消します。航空機部品、自動車部品、橋梁などへの応用が検討されています。


【関連情報】

  • 掲載日:2019年12月5日

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