次世代MOSFETの分析手法を確立 No.014
次世代MOSFETの分析手法を確立
半導体積層構造の内部状態を非破壊で解明
成果のポイント
- SPring-8の放射光の利用により、物質内部の構造の測定感度が従来のX線光電子分光法*と比べて約5倍向上
- 電極/絶縁膜/半導体の積層構造において、光電子スペクトルの変化と印加電圧の関係を明らかにし、絶縁膜に加わる電圧を算出
- 次世代MOSFET**の開発に応用できる分析技術を確立
研究・開発機関:(株)東芝
SPring-8の活用
背景
次世代MOSFETの開発をめざして、高誘電体ゲート絶縁膜、メタルゲート電極といった新しい材料の導入や、絶縁膜の多層化が検討されています。そこで必要となるのが、これらの新素材や内部構造を評価する分析手法の確立です。
従来、これらの分析にはX線光電子分光法が使われていましたが、測定深さが試料表面部分に限られており、物理的に破壊する以外に構造体の内部状態を測定できないという課題がありました。
また、測定可能な光電子ピークが少ないため、共存元素のピークが干渉して分析できない場合や、形状が複雑なピークのため十分な分析精度が得られない場合もありました。
成果の詳細
SPring-8の強力な放射光を利用する硬X線光電子分光法では、測定深さを20~30ナノメートルと深くでき、測定可能な光電子ピークの数も増えました。さらに、検出感度を高め、測定深さを変えて深さ方向の元素分布を得るため、X線を試料表面すれすれに照射して全反射させる「全反射法」を検討し、最適な測定条件を見いだしました。
また、半導体積層構造に電圧を印加したときに生じる電位分布を評価するため、段階的に電圧を変えて光電子スペクトルの挙動を測定。電極に埋もれた絶縁膜に加わる電圧を正確に求めることができました。これらの結果に基づき、次世代MOSFETの製品開発への応用が進められています。
MOSFETの構造と動作
MOSFETはシリコン基板(Si-sub)とゲート電極との間にゲート絶縁膜の薄膜をはさんだ積層構造になっています。ゲート絶縁膜として一般的な素材はシリコン酸化膜(SiO2)です。ゲート電極に電圧を印加することで、このシリコン酸化膜直下にキャリアが生成され、ソース・ドレイン間に電流が流れるようになります。
全反射条件における光電子スペクトルの測定結果
硬X線の入射角が0.4度の場合、表面側のシリコン酸化膜(SiO2)に由来する光電子ピークの強度はシリコン基板(Si-sub)のピークよりも小さいのに対し、0.2度の場合はその関係が逆転し、0.1度の場合はSi-subのピークがほとんど検出されていません。このことから、入射角を浅くするほど表面部分を選択的に測定していることがわかります。
用語解説
*X線光電子分光法
試料にX線を照射したときに放出される光電子のエネルギーを測定し、表面部分の元素や電子状態を分析する手法です。照射するX線のエネルギーによって分析できる深さが異なり、実験室ではAl-Kα線(1.4867 keV)などの軟X線が使われています。それに対してSPring-8の放射光は4~10 keVという強力な硬X線を使えるため、より表面から深い領域を分析できます。この硬X線を用いる方法は、特に硬X線光電子分光法(HAXPES)と呼ばれており、両者は利用するX線のエネルギーが異なるだけで、測定・解析技術の多くは共通です。
**MOSFET(モス・エフイーティー)
ゲート電極に電圧を印加することでソース・ドレイン間の電流を制御する電界効果トランジスタの一種で、ゲート部分(ソース・ドレイン間)に金属(ゲート電極)、酸化物(ゲート絶縁膜)、半導体(シリコン基板)の積層構造を採用しています。Metal(金属)Oxide(酸化物)Semiconductor(半導体)Field(電界)Effect(効果)Transistor(トランジスタ)の略語が通称となっています。現在の集積回路(LSI)の多くが採用する方式です。
【関連情報】
- 掲載日:2019年12月5日