液体燃料を用いる貴金属フリー燃料電池の開発 No.002

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液体燃料を用いる貴金属フリー燃料電池の開発 No.002

液体燃料を用いる貴金属フリー燃料電池の開発

電極触媒と電解質膜の性能を原子レベルで解析

成果のポイント

  • 液体の水加ヒドラジン*を燃料とする新型のアニオン交換膜**形燃料電池の電極触媒と電解質膜を原子レベルで解析
  • 電極触媒に白金以外の安価な鉄、コバルト、ニッケルなどを使うことで、省資源と低コスト化を実現
  • 液体燃料の便利さと高出力を生かして燃料電池車***の実用化に道

研究・開発機関:ダイハツ工業(株)、(独)日本原子力研究開発機構

SPring-8の活用

背景
 従来の燃料電池は、燃料の水素と酸素を反応させることで水と電気エネルギーを発生させています。この発電では、水素イオンを移動させる電解質膜が強酸性なので、電極触媒には高い耐蝕性が求められます。そのため触媒材料として高価な白金などの貴金属を使うことになり、コスト削減や資源問題が大きな課題になっています。また、燃料の水素はエネルギー密度を高くできないという問題がありました。
 一方、反応性の高い水加ヒドラジンを使った液体燃料電池が古くから提案されていましたが、電極触媒や電解質膜などの要素技術が確立されていませんでした。

成果の詳細
 水加ヒドラジンを燃料とする電池では、水酸化物イオンが移動し電解質膜はアルカリ性になるので、白金触媒に代わる安価な金属が使えます。そこで、SPring-8の多様な産業用ビームラインを利用して、最適な触媒構成元素の探究がおこなわれ、コバルトを主体とする高性能な電極触媒を開発しました。
 さらに高活性の触媒を設計するには、発電状態における電極反応の解明が必要です。その場観察(in-situ XAFS)によって原子構造の変化が解析されました。また、電解質膜の開発も進められ、軽自動車への搭載が可能な出力を実現することができました。実用化に向けて、さらなる性能と信頼性の向上が図られています。


従来型燃料電池から新型液体燃料電池への転換

従来型燃料電池から新型液体燃料電池への転換


SPring-8におけるその場観察(in-situ XAFS)の様子と測定結果

産業用ビームラインBL14B2を使って、測定セル中の燃料電池を作動させながら、その場観察がおこなわれました。右図は、空気極の触媒として開発したコバルト触媒周辺の原子の分布を示します。電位が下がると、酸素還元反応が進み、触媒上の吸着種が離脱していきます。

SPring-8におけるその場観察(in-situ XAFS)の様子と測定結果


SPring-8 構内を走る貴金属フリー液体燃料電池車FC凸DECK。

2013年の東京モーターショーに出展されました。

SPring-8 構内を走る貴金属フリー液体燃料電池車FC凸DECK。


用語解説

*水加ヒドラジン
分子式:N2H4・H2O 反応性が高く、燃焼や発電の際に地球温暖化の原因物質とされる二酸化炭素をまったく排出しません。引火点は75℃(100%濃度)。常温常圧で液体なので、持ち運びが容易です。毒性や発がん性の疑いがあるので、手に触れないようにしたカートリッジ式のタンクが提案されています。

**アニオン交換膜
陰イオン交換膜のこと。プラスの電荷交換基が固定されているため、陽イオンは反発して通過できず、陰イオンのみを通過させます。従来型の燃料電池は陽イオンを通過させるカチオン交換膜を使っています。

***燃料電池車
燃料電池で電気をつくり駆動力を得ています。電気をためて走る電気自動車は1回の充電で走れる距離が短いのに対して、1回の燃料補給で走れる距離はガソリン車と同程度。二酸化炭素などの排ガスを出さない「究極のエコカー」として、世界のメーカーが開発にしのぎを削っています。


【関連情報】

  • 関連ビームライン:BL14B2
  • 掲載日:2019年12月4日

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