タンデム型太陽電池の性能向上に向けたバンドオフセット(不連続量)解析 No.045

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タンデム型太陽電池の性能向上に向けたバンドオフセット(不連続量)解析 No.045

タンデム型太陽電池の性能向上に向けたバンドオフセット(不連続量)解析

成果のポイント

  • 太陽電池の性能向上を左右するpn接合界面のバンドオフセット(不連続量)を、実際のデバイスと同じ膜構造の積層試料で解析
  • 積層試料から参照スペクトルを取得するため厚い参照試料が不要で、厚膜化が困難な材料でも解析可能
  • 亜酸化銅(Cu2O)を用いたタンデム型太陽電池のバンドオフセットを解析し、組成や成膜条件の最適化に活用

研究・開発機関:株式会社 東芝

SPring-8の活用

背景
 タンデム型太陽電池は、特性が異なる太陽電池を組み合わせて発電効率を高めた太陽電池で、GaAs系太陽電池を用いる現行品ではSi太陽電池単体の1.5~2倍の発電効率が得られますが、数100倍以上の高い製造コストが課題です。
 これに対し、亜酸化銅(Cu2O)太陽電池は低コストの反応性スパッタリング法を用いた製造が可能で[1]、Si太陽電池と組み合わせた全体の発電効率は26.1%を達成していますが[2]、さらなる効率向上には、p型半導体であるCu2O層と組み合わせるn型層の材料や成膜プロセスを最適化し、pn接合界面の伝導帯バンドオフセットを小さくする必要があります[3]
 このバンドオフセットの解析には、検出深さが数10 nmと大きいHAXPES(硬X線光電子分光法)が有効で、実際のデバイスで用いられる厚さ10 nm程度のn型層越しに埋もれた界面を測定できますが、一方で膜厚50 nm以上の厚い参照試料が必要となるため、成膜時間や結晶成長の点から厚膜化が難しいn型材料には適用が困難でした。

成果の詳細
 そこで本研究ではSPring-8を利用し、n型層が10 nm程度の積層試料をX線全反射条件で測定することで、検出深さが小さくなりn型層の参照スペクトルが得られることを確認しました。酸化スズ亜鉛(ZTO)をn型層に用いた積層試料では、Cu2O表面の平坦性不足により十分なX線全反射が生じませんでしたが、膜厚評価用としてSi基板上に同時成膜されたZTO層からX線全反射を利用した参照スペクトルが得られ、ZTO/Cu2O界面のバンドオフセットを求めることができました。この方法では組成や成膜条件ごとに厚いn型層の参照試料を作製する必要がなく、積層試料のみを作製すればよいため、より多くの条件についてバンドオフセット解析が行えるようになりました。今後、n型材料の組成や成膜条件の最適化にバンドオフセット解析を活用し、安価で高効率なタンデム型太陽電池の製品化を目指します。

結果

Cu2Oを用いたタンデム型太陽電池

Cu2Oを用いたタンデム型太陽電池

 短波長の光をCu2O太陽電池が、透過した長波長の光をSi太陽電池が吸収して発電することで、全体の変換効率を高めることができます。理想効率に近付けるためには、Cu2O太陽電池のpn接合界面におけるバンドオフセットを制御し、効率よく電子を取り出す必要があります。

HAXPESを用いたバンドオフセット解析

HAXPESを用いたバンドオフセット解析

 デバイスと同じ膜構造の積層試料から⊿Ecoreを、Cu2Oとn型層(ここではZTO)の参照試料からそれぞれ⊿ECu2O、⊿EZTOを求めて、価電子帯オフセット⊿EVおよび伝導帯オフセット⊿ECを決定します。参照試料の膜厚は下地の信号が無視できるようHAXPESの検出深さよりも厚くする必要がありますが、X線の全反射を利用して検出深さを小さくすることで、厚い参照試料の代わりに積層試料を用いて参照スペクトルを取得できます。

ZTO/Cu2O積層試料および参照試料の価電子帯スペクトル

ZTO/Cu2O積層試料および参照試料の価電子帯スペクトル

 左図はZTO(8.9 nm)/Cu2O(2 μm)積層試料およびCu2O(2 μm)参照試料の価電子帯スペクトルで、X線全反射条件(X線視射角0.3°)と通常条件(同0.8°)で測定したものです。ZTO/Cu2Oの全反射は通常との差が小さく、Cu2O参照スペクトルの特徴も強いことから、ZTO単体のスペクトルとは考えにくく、これは多結晶膜であるCu2O表面の平坦性が低く、全面均一にX線全反射が生じないためと推定されました。
 右図はZTOの膜厚評価用にSi基板上に同時成膜したZTO/SiおよびSi基板の価電子帯スペクトルで、ZTO/Siの全反射は通常との差が小さいですが、これはSiの価電子帯スペクトルそのものが弱いためで、定量結果ではZTOが主成分となっていることからZTOの参照スペクトルとみなすことができます。

ZTO/Cu2O界面のバンドオフセット解析

ZTO/Cu2O界面のバンドオフセット解析

 通常条件で測定したZTO/Cu2O積層試料、Cu2O参照試料のスペクトルと、X線全反射条件で測定したZTO/Si膜厚評価試料のスペクトルから、それぞれ上図に示す⊿Ecore、⊿ECu2O、⊿EZTOが得られ、これらを用いて価電子帯のバンドオフセットは0.93 eVと求められました。さらにZTOとCu2Oのバンドギャップを与えることで、伝導帯のバンドオフセットを求めることが可能です。

 


参考文献
[1] 山本 和重ほか: 東芝レビュー 74(1) (2019) 30.
[2] 保西 祐弥ほか: 第68回応用物理学会春季学術講演会、17p-Z35-11 (2021).
[3] R. E. Brandt et al.: Appl. Phys. Lett. 105 (2014) 263901.


【関連情報】

  • 関連ビームライン:BL16XU
  • 関連発表等:第18回SPring-8産業利用報告会
  • 掲載日:2022年1月6日

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