グリセリンおよびジグリセリンを用いた保湿剤の肌のナノ構造への作用メカニズムの解明と製品化 No.043

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グリセリンおよびジグリセリンを用いた保湿剤の肌のナノ構造への作用メカニズムの解明と製品化 No.043

グリセリンおよびジグリセリンを用いた保湿剤の肌のナノ構造への作用メカニズムの解明と製品化

成果のポイント

  • グリセリンおよびジグリセリンによる肌の角層の構造変化をナノレベルで測定
  • 今まで不明な点の多かったグリセリンおよびジグリセリンの肌への作用メカニズムについて、科学的根拠に基づき解明

研究・開発機関:阪本薬品工業株式会社

SPring-8の活用

背景
 人間の皮膚最外層には“角層”と呼ばれる20 µm程度の層が存在し、“角層細胞”とそれを取り囲むような“細胞間脂質”から構成されています。これら角層は、水を蓄え体内からの過剰な水分蒸散を制御する機能を持っています。しかし乾燥が続くと、角層の水分が失われ乾燥肌が誘発されます。この乾燥の改善を目的に、スキンケア化粧品などで角層の水分量を高めることを“保湿”と言います。
 グリセリンは安全性が高く、角層の水分量を高める効果を示すため、古くから保湿剤として化粧品や外用剤に経験的に配合されてきました。しかし、保湿剤として使われるグリセリンでさえ、「角層にどのように作用するか」は十分に解明されていませんでした。そのため、ナノレベルでの保湿剤の作用メカニズムの解明が望まれていました。
 角層のナノ構造の解析には、X線構造解析が重要な手法となります。その中で、SPring-8のX線回折装置の利用により、従来の装置では難しかった、複雑なナノ構造からなる実際の皮膚角層の構造変化の解析を試みました。

成果の詳細
 X線解析を用いた新たな評価方法として、今まで使われていた溶液セルを応用し、角層試料の湿潤および乾燥状態における構造変化を追跡する手法を開発しました。
 先ず、角層細胞中のソフトケラチンを形成するαヘリックス鎖の間隔(1 nm)について調べたところ、乾燥角層を水で湿潤させることでαヘリックス鎖の間隔が拡大し、そこから乾燥させると元の間隔まで縮小しました。このことから角層細胞に由来するソフトケラチンは、水により変化することが確認されました。また、角層をグリセリン水溶液の湿潤状態から乾燥させた際は、αヘリックス構造の間隔が緩やかに縮小することも確認され、グリセリンはソフトケラチンに作用し、角層細胞の水を蓄える機能を増強したことが分かりました。
 次に細胞間脂質を形成する短周期ラメラ構造の直方晶充填構造を調べたところ、適正な水分量では構造が安定化し、過度の乾燥では不安定な状態になることが分かりました。さらには湿潤状態から乾燥させる際は、水に比べて、グリセリンおよびジグリセリン水溶液においては、安定な状態が長く続くことが確認され、水分量を制御する機能が向上したことが分かりました。
 これらのことから、グリセリンおよびジグリセリンを保湿剤として用いることにより、角質細胞や細胞間脂質のそれぞれの機能を相乗的に向上させ,保湿効果が向上することを確認しました。この科学的根拠に基づいた報告により、グリセリンを組み合わせた高機能な保湿剤の普及に成功しました。

■体の皮膚の表皮・角層の構造と保湿機能

体の皮膚の表皮・角層の構造と保湿機能

表皮上方の角層は、“角層細胞”と“細胞間脂質”からなります。“角層細胞”は2本のαヘリックス鎖が集まり束になったソフトケラチンで満たされており、主に水分を蓄える役割をしています。“細胞間脂質”は水層と炭化水素鎖の直方晶充填構造からなり、角層内の水分量が正常になる様制御しています。これらの機能が角層の保湿機能をなしていると考えられています。

■X線回折による新しい評価方法の開発

X線回折による新しい評価方法の開発

新しい評価方法の開発として「溶液セル」を応用し測定を行いました。これはセルの中心に角層を固定し、溶液を通液させることが可能なものです。新たな評価方法として、角層を保湿剤水溶液で湿潤する評価に加え、窒素ガスを吹き込み、角層が乾燥する際の構造変化も評価しました。開発手法を用い、短い時間分割で角層の構造変化を追跡することで、僅か0.1%程度の動的な構造変化の検出も可能としました。

■角層細胞乾燥時の構造変化

角層細胞乾燥時の構造変化

角層を水およびグリセリン水溶液で湿潤させ、ソフトケラチンが水和した状態にしました。そこから乾燥させると、水の場合では間隔の収縮の変化が早く、「急な勾配」を示しました。グリセリン水溶液で処理した場合は、「緩やかな勾配」となり、水に比べて緩やかに収縮することが確認されました。これら結果より、グリセリンは角層細胞に入りソフトケラチンに作用することで、角層細胞の水を蓄える機能を増強することが明らかとなりました。

■細胞間脂質の乾燥時の構造変化

細胞間脂質の乾燥時の構造変化

角層の細胞間脂質が乾燥時に安定な構造を保持する時間について、水、グリセリンおよびジグリセリンの影響を比較しました。充填構造が安定な状態を保つ時間を比較すると、水<グリセリン<ジグリセリンの順となりました。この結果より、保湿剤のグリセリンおよびジグリセリンは短周期ラメラ構造の水層間に入り、細胞間脂質に作用することで角層が本来持つ水分を制御する機能を高めたと考えられます。

■グリセリンおよびジグリセリンを用いた製品化

グリセリンおよびジグリセリンを用いた製品化

グリセリンとジグリセリン混合系を応用することで、保湿効果の高い化粧品が開発され、国内外の化粧品企業での利用が拡大しました。
 


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