X線マイクロCTによる油調済みパン粉の微細構造観察 No.35

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X線マイクロCTによる油調済みパン粉の微細構造観察 No.35

X線マイクロCTによる油調済みパン粉の微細構造観察

パン粉の撥油のメカニズムの解明

成果のポイント

  • 油で揚げた(油調)パン粉について、SPring-8を用いてナノレベル(1辺が350 nmのピクセル精度)の微細構造観察
  • パン粉内部の微細構造について、油切れの良い*パン粉は、油が入り込み“づらい”特殊な空孔の存在を確認
  • パン粉の油切れの良さは “油の浸入していない空孔”の多さで決まることを解明

研究・開発機関:(株)サヌキフーズ、香川大学、(一社)おいしさの科学研究所

*油切れの良い この場合「パン粉を油で揚げたあと、吸油率が低い」ことを指す。
**裸麦を50%含有したパン粉 小麦から作る通常パン粉と異なり、原料の50%を裸麦に置き換えたパン粉。裸麦は大麦の一種で、小麦などと比べ食物繊維が多いことが知られている。

SPring-8の活用

背景
 パン粉の内部は多孔質であり、油で揚げたあとのパン粉の油切れは、原材料によって異なることが知られていましたが、その理由については明らかにされていませんでした。通常のパン粉ではなく、裸麦を50%含有したパン粉**を作成したところ、通常のパン粉より吸油率が20%から30%低下していることがわかりました。その、裸麦50%パン粉について走査電子顕微鏡(SEM)観察を行うと、通常のパン粉に比べて表面に微細な凹凸構造が多く確認され、“この構造”が表面に空気の層を作り、吸油率の差を生むと考えられました。しかし、パン粉自体の内部における構造と油の分布状況の比較観察は出来ていませんでした。

成果の詳細
 そこで油調済みの“焙焼パン粉(小麦粉から作ったパン生地をガス火で焼き、粉砕したパン粉)”、“電極パン粉(小麦粉から作ったパン生地を通電させ、作成したパン粉)”および“裸麦50%パン粉”について、SPring-8を用いてX線CT画像を得ると、パン粉本体の内部に“油で満たされた空孔”と“油で満たされていない空孔” の2種類の空孔の存在を確認しました。また、油調済みパン粉において、油はナノレベルではパン粉と油の界面が接しているだけで、パン粉自体に油が入り込まず(吸収されず)、パン粉表面に吸着(まとわりつく状態)と、パン粉内部の空孔内に入り込んでいることが分かりました。さらに“裸麦50%パン粉”は、他の油調済みパン粉に比べて“油で満たされていない空孔”が多いことが分かりました。
 この“裸麦50%パン粉”のCT画像を積層した立体画像として詳細に観察すると、空孔内面に微細な凹凸構造が確認されました。これらの事象から、油が空孔に入りづらくなり、空孔が生かされ、良い油切れが得られることを解明しました。

パン粉について

パン粉について

パン粉は、一般的に多孔質のスポンジ構造であり、内部に多数の空孔が存在することが知られています。
(写真は電極パン粉、パン生地に通電して作り上げる。焙焼パン粉と異なり、“焦げ目”が付かない)

SEMによる観察

SEMによる観察

“焙焼パン粉”、“電極パン粉”および“裸麦50%パン粉”をSEMで観察すると、油切れの良いパン粉ほど平滑表面ではなく微細凹凸構造で表面が覆われていることが分かった。ただし内部については、油の存在があり、撮影が困難であった。

SPring-8によるX線マイクロCT画像による油調済パン粉の油の分布状況観察

SPring-8によるマイクロX線CT画像による油調済パン粉の油の分布状況観察

(円形の白い部分は、パン粉を保持しているガラスキャピラリー。濃淡の明るい(白い)部分がパン粉、濃淡の濃い部分が空気、濃淡の中間の部分が油である)

X線マイクロCT画像を比較すると、油切れの良い(吸油率の低い)パン粉ほど内部に油の入っていない空孔が存在することが確認できた。裸麦50%パン粉(右)は内部に油の入っていない空孔が数多く存在し、なおかつ、特に赤枠部分の様に閉じていない空孔が存在し、その開口部は油と接しているにもかかわらず空孔内部に油が入り込んでいない状態が確認された。また、3種ともパン粉表面において、空気の層は確認されなかったので、パン粉表面の凹凸は油切れに関与していないことが分かった。

開口部のある空孔開口部のある空孔

左図青枠部の立体画像左図青枠部の立体画像
(上記3つとも裸麦50%パン粉)


左図青枠部の3D動画

裸麦50%パン粉は、開口部が油と接しながらも油の入っていない空孔が見受けられた。その箇所を立体画像で別角度から観察すると、表面が微細凹凸構造で覆われているのが確認できた。

空孔に油が入り込まない理由

リ・エントラント構造の模式図

“リ・エントラント構造”(左)と
“ダブル・リ・エントラント構造”(右)の模式図
Phillip et al., 2016を元に改変)

濡れのピン止め効果の模式図

濡れのピン止め効果の模式図
液滴が屈曲のある表面にさしかかると接触角がθ+αになるまで先に進めない。

特に裸麦50%パン粉において、空孔の中に油が入りづらいのは以下の理由が考えられる。

  • パン粉内部の空孔は“リ・エントラント構造(入口が小さく奥に侵入すると横方向に広がっている陥没した凹構造)”になっていて、普通の空孔より油滴(液滴)は入りづらい。
  • その中で、特に裸麦50%パン粉は、空孔内部の表面が微細凹凸構造で覆われている。
  • そうすると“ダブル・リ・エントラント構造(陥没構造の入口周辺の内方向に折り返しの付いた状態)(参考1)”になり、さらに油滴(液滴)が入りにくくなる。
  • また液滴 (油滴)が穴の内部に回り込む時により大きな屈曲角となり、“濡れのピン止め効果(参考2)”が強く働き、上記“ダブル・リ・エントラント構造”と相乗効果でより油滴(液滴)が入りづらくなる。

これらの事から、油で調理しても油の入っていない空孔が多くなり、油切れが良くなる原因と推測された。

(参考文献)
参考1:Philip S. Brown and Bharat Bhushan, Durable, superoleophobic polymer–nanoparticle composite surfaces with re-entrant geometry via solvent-induced phase transformation, Sci. Rep. 6, 21048(2016).
参考2:辻井 薫, 超撥水と超親水, 米田出版(2009).

SEM画像は文部科学省のナノテクノロジープラットホーム事業(香川大学微細加工プラットホームの支援を受けて撮影 JEOL JCM-5700LV)による。

本件の詳細は
小谷、合谷、平松、山野, マイクロX線CTによる、油調済みパン粉の微細構造観察,
SPring-8 利用研究成果集, Vol. 6, 310–314(2018).

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