ポリマー使った接着フィルムの開発 No.029

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ポリマー使った接着フィルムの開発 No.029

ポリマー使った接着フィルムの開発   Web限定公開 

伸びと柔軟性を両立させて機能性をアップ

成果

  • エラスティックフィルムの材料である熱可塑性エラストマーSIS*の構造解析
  • SPring-8で得られた結果をスーパーコンピュータ「京」を用いて検証
  • 機能的に相反する“伸び”と“柔軟性”を兼ね備えた特殊SISの構造解析の結果より、機能性の向上へ前進

研究・開発機関:日本ゼオン(株)

*SIS
スチレン-イソプレン・ブロック・コポリマーです。鎖状に連なるイソプレン(ポリマー)の両端にスチレンポリマーを重合させた物質です。熱や圧力を加えても、イソプレンとスチレンの2つの部位が独立して混ざりにくい「相分離」という構造をしています。

**小角X線散乱測定(SAXS)
X線を試料に照射し、散乱強度のプロファイルからナノスケールの構造を解析する手法です。

***極小角X線散乱測定(USAXS)
従来のX線小角散乱で測定される一般的なサイズは数~数10 nmですが、それよりも大きい数百nm程度のサイズのメゾスコピック構造について、より極小散乱角領域の散乱強度プロファイルを測定し評価する方法を極小角X線散乱測定と呼びます。

SPring-8の活用

背景
 複合材料のポリマーは、私たちの生活の中で様々な場所で活躍しています。その中で“エラスティックフィルム”は伸縮性のある接着フィルムで、紙おむつ等で体へのフィット感(弾性)や装着時の伸縮性の相反する機能を両立させる目的で使用されています。
 エラスティックフィルムの材料は、熱可塑性エラストマーSISと呼ばれるポリマーで、直鎖上の両端に、熱変性のスチレン部を有した構造となっています。基本的にスチレン部は熱変性のないイソプレン部に対称的につながった構造(対称SIS)ですが、スチレン量の増減と、それに対する応力と復元性はトレードオフの関係にあり、この応力と復元性を両立させることは困難でした。そこで両端のスチレン量を変えた非対称SISをある一定量混ぜることにより、応力と復元性を両立させたフィルムが開発されました。しかし、その構造上の詳しい理由は不明でした。

成果の詳細
 そこで対称SISや、対称SISに非対称SISを混ぜた特殊SISを含む様々な試料形態を用意し、SPring-8を用いて極小角***・小角X線散乱測定**(USAXS・SAXS)を用いて構造変化を調べました。対称SISのみの場合、スチレン含有量が増えると、スチレンが層状になり弾性を失う事が分かりました。また特殊SISは、スチレンブロック鎖が球状になり、それら大きさの異なる球状になったスチレンが混在する構造になり、弾性を保持できることが分かりました。
 これら結果を基にして、スーパーコンピュータ“京”を用いてシミュレーションを行い、結果の検証や、さらにはSPring-8を用いて“引っ張りながら”の観察を行い、実際使われている際の構造変化を確認しました。今後はこれらの得られたデータから更なる機能性の向上を目指すと共に、高速ダイカット性を実現するホットメルト粘着剤にも展開を進めます。

エラスティックフィルムの使用例

エラスティックフィルムの使用例
エラスティックフィルムの使用例:力強い伸びと柔軟性が要求される

極小角X線散乱測定装置

極小角X線散乱測定装置

SPring-8の産業利用Iビームライン(BL19B2)の極小角X線散乱測定装置は、2次元検出器を用いて測定するタイプで、その最大の特長は試料と検出器の間の距離を約42 mと非常に長くできることにあります。この特長によって約0.01度以下の極小散乱角領域のSAXS測定が可能となり、従来のSAXS装置では評価することができなかった粒子の凝集体など、数100 nm程度の構造も評価することが可能となりました。

対称SISと特殊SISを含んだ試料へのSAXS・USAXS測定

SAXS・USAXS測定

対称SIS

特殊SIS

表のとおり、スチレン含有量が異なる対称SISと、対称SISに非対称SISを混合させた特殊SIS、合計6種類の試料でSAXS・USAXS測定を行いました。その結果、対称SISでは、スチレンの含有量の増加と共に、層状のスチレンが形成され、それらが邪魔をして弾性が失われることが分かりました。特殊SISの試料では、いずれもスチレンは球状をしていますが、非対称SIS(SIS’)の長い方のスチレンブロック鎖(S’鎖)が長いほど、スチレンの球が大きくなり、その周囲や界面に小さなスチレンの球が取り囲んでいることが分かりました。

スーパーコンピュータ「京」によるシミュレーション

スーパーコンピュータ「京」によるシミュレーション

ポリマーの相分離構造を解析するために用いたのが、相分離した構造を形成するブロック鎖の密度を計算するSCF法と呼ばれる手法です。その結果を用いて二次元の画像として可視化したところ、特殊SIS 1の試料では、大きな球となっているのが非対称SIS由来のスチレンであることがわかりました。逆に、そのまわりにある小さなスチレンは、非対称SISの短いSブロック鎖と対称SISのSブロック鎖に由来のものでした。これらをスーパーコンピュータ “京”を用いて三次元画像として可視化することにより、SPring-8で得られた結果を検証することができました。

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